震災で家に住めなくなったら|親戚宅やホテルへの避難という選択肢

震災で家に住めなくなったとき、「県外の親戚の家に行く」「ホテルに移る」という選択をしていいのか。避難所で頑張っている人がいるのに、自分だけ離れるのは逃げではないのか。この記事は、その迷いに防災士として正面から答える1本です。

結論から言います。家に住めなくなったら、安全な親戚宅やホテルへ移ることは「逃げ」ではなく、国や県が公式に用意し、勧めている避難の形です。そして避難所を離れても、支援を受ける権利はあなたと一緒に移動します。

この記事は、2024年の能登半島地震で実際に行われた「2次避難」の公的な記録をもとに書きました。数字の出典はすべて消防庁・石川県などの公表資料と、その報道です。

まず知ってほしい数字|亡くなった方の7割は「地震の後」でした

能登半島地震の死者は743人。このうち515人は「災害関連死」です(2026年6月30日時点・消防庁/石川県公表)。建物の倒壊など地震そのもので亡くなった方より、その後の避難生活の負担で亡くなった方のほうが、はるかに多いのです。

寒い体育館の雑魚寝、断水でトイレを我慢し、水分を控え、持病が悪化する。地震の前は介助があれば食事も入浴もできていた高齢者が、避難生活2週間で寝たきりになった記録もあります(生活不活発病)。

だからこそ国と石川県は、避難所から設備の整った場所へ移ってもらうことに全力を挙げました。「その場で耐えること」は、正しさではなかったのです。

ホテル・旅館への避難は「公式の制度」です

能登半島地震では、避難は次の3段階で行われました。

段階場所内容
1次避難所地元の体育館・公民館発災直後の緊急避難
1.5次避難所金沢の大型施設2次避難までの中継地点。ペットと過ごせるトレーラーハウスも設置された
2次避難所県内外のホテル・旅館設備の整った宿泊施設。宿泊・食事は公費

政府は2次避難を進めるため、自治体がホテルなどを借り上げる際の上限を1人1泊7,000円から1万円に引き上げました。県外でも、たとえば群馬県は73の旅館・ホテルに396室を用意し、1日3回の食事つきで受け入れ、県営住宅50戸を無償提供しています。

つまり「ホテルに避難するなんて贅沢」「わがまま」ではありません。行政がお金を出してでも移ってほしい、と用意した避難先です。

親戚・知人宅への避難も、国が勧める選択肢です

感染症の流行以降、国は「避難先は小中学校・公民館だけではありません。安全な親戚・知人宅への避難も検討しましょう」と繰り返し呼びかけています(内閣府の避難行動判定フローなど)。避難所に人が集中しすぎないよう、避難先を分ける「分散避難」という考え方です。

親戚の家には、避難所にない物があります。屋根と壁だけではなく、あたたかい食事、鍵のかかるお風呂、夜泣きしても気兼ねしない部屋、子どもの笑い声を許してくれる空気。これらは贅沢品ではなく、長い避難生活では健康そのものです。

それでも、ためらう気持ちについて

能登でも、2次避難をした人は1月下旬時点で避難者の2割に満たなかったと報じられています。理由は「地元を離れたくない」「知らない人と暮らしたくない」「家や田畑が心配」。どれも自然な気持ちで、間違いではありません。

そのうえで、防災士としての私の答えは1つです。避難は撤退ではなく、生活と健康を守るための移動です。家の再建には体力とお金と判断力が要ります。それをすり減らす場所に居続けることのほうが、再建を遠ざけます。

特に、乳幼児・妊婦さん・高齢の方・持病のある方・介護が必要な家族がいる方。この記事だけでも覚えて帰ってください。あなたの家族は、早く移った人から順に守られます。

能登で実際に流れた「誤解」3つ

2次避難をためらわせた誤情報が、実際にありました。同じ誤解で足を止めないでください。

  • 「1.5次避難所に入るには、り災証明書が必要」→ 誤りです。石川県が「不要」と公式に発表しています。証明書は後からで大丈夫です
  • 「2次避難すると仮設住宅で不利になる」→ これも誤情報として否定されています。離れたことを理由に不利にはなりません
  • 「避難所にいないと支援がもらえない」→ 違います。在宅避難でも県外への避難でも支援の対象です。能登では広域避難者も名簿で把握して支援する仕組みが作られました。ただしあなたの居場所を市町村に伝えておくことが前提です(次の章で)

県外へ行く前にやること5つ

  1. 家の写真を撮る:外観4方向+被害箇所。り災証明と保険請求の証拠になります。撮ってから離れる
  2. 市町村に避難先と連絡先を伝える:役場の窓口か電話で。支援情報・給付の案内はここに届きます。り災証明の申請は後日・郵送やオンラインに対応する自治体もあります
  3. 郵便の転送届を出す:ネットの「e転居」なら避難先からでも手続きできます
  4. 子どもの学校に連絡する:能登では奥能登の小中学生の約37%が籍を元の学校に残したまま避難先で学びました。転校だけが選択肢ではありません。教育委員会に相談を
  5. 保険会社と勤務先に連絡する:地震保険の請求は電話で始められます。連絡先だけ控えて出発してください

お金の正直な話

  • 公費になるもの:自治体が指定する2次避難所(ホテル・旅館)の宿泊・食事
  • 自費が基本のもの:自分で予約したホテル、親戚宅への交通費。ここは正直にそうです
  • あとから入るお金:り災証明にもとづく被災者生活再建支援金(全壊等で最大300万円)、地震保険、義援金。県外にいても受け取れます

期間の目安も持っておきましょう。電気は約1週間、水道・ガスは月単位というのが過去の震災の実績です(巨大地震から生活が戻るまでの記事に詳しくまとめました)。つまり県外避難は「一生の移住」ではなく、復旧までの数週間〜数か月を安全な場所で過ごす一時避難と考えると、決断が軽くなります。

今日できる備え|「もしもの合意」をひとこと

この選択肢を本当に使えるようにする備えは、備蓄ではなく会話です。次に親戚と会うとき、電話するときに、ひとことだけ交わしてください。

「もしもの時は、お互いさまにしよう。うちに何かあったらそっちに行くかもしれんし、そっちに何かあったらうちにおいで」

行き先が1つ決まっているだけで、災害の日の一番重い決断が「行くか行かないか」から「いつ行くか」に変わります。逆にあなたが受け入れる側になる日も来ます。そのときのための客用布団1組と水の備蓄も、立派な防災です。

よくある質問

Q. ペットがいるので動けません。
A. 能登の1.5次避難所にはペットと過ごせるトレーラーハウスが設置されました。ペット可の宿も探せます。ただ現実には選択肢が限られるのも事実です。飼い主さんは平時からペット可の避難先候補を調べておいてください。納屋や車に残る選択は、命の危険と隣り合わせです。

Q. 仕事があるので県外には行けません。
A. 家族だけ先に避難させる「片道切符ではない分散」も立派な形です。実際、働き手だけ地元に残り、高齢の親や子どもを2次避難させた家庭は多くあります。

Q. いつ戻ればいいですか?
A. 目安は「水道の復旧」と「家の安全確認(り災証明・応急危険度判定)」の2つが揃ったときです。戻る日を決めるためにも、市町村への連絡先登録を忘れずに。

Q. 避難所のみんなに悪い気がします。
A. あなたが移ると、避難所の毛布と水とトイレと支援の手が、その分だけ残った人に厚くなります。移れる人が移ることは、残る人への支援でもあります。誰にも謝る必要はありません。

まとめ

震災で家に住めなくなったら、県外の親戚宅やホテルへの避難は、国と自治体が制度として用意した正式な選択肢です。能登の743人のうち515人が災害関連死だったという事実が、「安全な場所へ早く移る」ことの意味を教えてくれています。支援はあなたの居場所についてきます。移る前に写真と連絡先登録だけ忘れずに。

今日の行動は1つ。「もしもの時はお互いさま」を、親戚とのやり取りの中でひとこと交わしてください。それだけで、この記事の選択肢はあなたの家族の現実の備えになります。

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※能登半島地震の数字は消防庁・石川県の公表資料(死者743人・うち災害関連死515人、2026年6月30日時点)および各報道に基づきます。支援制度の内容は災害ごとに異なるため、実際の際はお住まいの市区町村の案内をご確認ください。

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