静岡駅の改札で、清水駅の東口で、浜松駅の新幹線ホームで、大きく揺れた。旅行や出張で来た人が最初に迷うのは「どこへ逃げるか」です。この記事は、静岡市と浜松市の3つの場所について、揺れた直後の1時間に何をするかを、静岡県・静岡市・浜松市の公式の資料から書いたものです。旅先で地震にあった時の共通の動き方は旅行先で地震にあったらの記事にまとめています。
結論を先に言います。静岡駅と清水駅は電車で12分しか離れていないのに、地震の時にやることが正反対です。静岡駅は標高15.4mで、津波に対応した避難場所はいちばん近くて直線3km超。清水駅は海抜1.7mで、津波の避難先が直線92mにあり、地震の避難場所(約783m)よりずっと近い。そして県は「すぐ逃げれば死者が9割減る」という推計を、同じ資料に載せています。
私は防災士として、静岡県第4次地震被害想定(平成25年公表)、静岡県の津波浸水想定の解説、静岡市地域防災計画 地震対策編・津波対策編(令和8年1月修正)、浜松市地域防災計画 地震・津波対策編、気象庁の南海トラフ地震臨時情報の解説、国土地理院の指定緊急避難場所データと標高を読んでこの記事を書きました。
3地点の結論|動くか、待つか
| 場所 | 標高 | いちばん近い避難先(直線) | 揺れが収まったら |
|---|---|---|---|
| 静岡駅 | 15.4m | 地震 約342m 伝馬公園 / 津波 約3,154m | 駅を出て伝馬公園のような広い場所へ。津波のために海から離れる地点ではない |
| 清水駅 | 1.7m | 津波 約92m 駅東口ペデストリアンデッキ・約514m 清水橋 / 地震 約783m | すぐ動く。津波の避難先のほうが近い、逆転した街 |
| 浜松駅 | 4.3m | 地震 約513m 双葉小学校 / 津波 約1,482m 浅間小学校 北棟3階 | まず落ちてくる物から身を守る。津波の避難先は1.5km先の小学校の3階 |

標高は国土地理院の数値(2026年9月16日取得)、避難場所は国土地理院の指定緊急避難場所データ(静岡市分は2026年9月1日更新、浜松市分は2026年5月22日更新)です。距離はすべて直線距離で書きます。浜松市は2024年1月1日に行政区を7区から3区に再編し、浜松駅の住所はいま「中央区」です。県の想定の表は再編前の区名なので、見るときに注意してください。
静岡で想定されている地震|レベル1とレベル2で、別の街の話になる
静岡県の想定は、県のページを見た範囲では第4次地震被害想定(平成25年公表)が最新です。この想定は2段構えになっています。レベル1は「発生頻度は比較的高く(駿河・南海トラフでは約100〜150年に1回)、発生すれば大きな被害をもたらす地震・津波」、レベル2は「発生頻度は極めて低いが、発生すれば甚大な被害をもたらす、あらゆる可能性を考慮した最大クラスの地震・津波」。数字を見るときは、どちらの話かを必ず確かめてください。
静岡市のレベル2(冬・深夜)の死者は約15,100人で、そのうち清水区が約12,000人、内訳の津波が約11,000人です。レベル1(冬・夕)では市の死者が約2,400人で、主役は火災と建物倒壊。レベルが上がると、主役が津波に入れ替わり、清水区に集中します。浜松市も同じです。レベル1の津波の死者は「被害わずか」ですが、レベル2では早期避難率が低い場合に最大 約16,610人。建物の全壊と焼失は、レベル2で全体の44〜48%です。
揺れの感じ方も書かれています。南海トラフ巨大地震の場合は「強弱を繰り返しながら強く大きな揺れが3〜4分間(地盤が軟弱であればそれ以上)継続する可能性が高い」。津波の速さについても一文あります。「陸上に遡上した津波はほぼ人間が全速力で走る程度の速さである」。そして「少なくとも12時間以上の警戒が必要である」。
同じ資料に、逆向きの数字も載っています。レベル1で「夏・昼の場合の死者数が約5,700人から約700人に約9割減少すると推計される」。比べているのは「早期避難率が低く津波避難ビルが活用されない場合」と「全員が発災後すぐに避難を開始し津波避難ビルが有効に活用された場合」です。レベル2でも、夏・昼で約7割減ると書かれています。県は「事前に予防的な対策を講じることにより被害を大幅に減らすことができることにも注目していただきたい」とも書いています。
静岡の分かりにくさ|同じ県で、逃げ先の形が違う
| 街 | 津波の避難先の形 | 公表されている中身 |
|---|---|---|
| 静岡市 | 津波避難タワーと、築山形式の命山 | 清水区9基・駿河区10基・命山1基の計20基。避難可能高さは7〜14m |
| 静岡市(清水駅) | 橋と、駅の歩道橋デッキ | 清水駅東口ペデストリアンデッキ(約92m)、清水橋(約514m) |
| 浜松市 | 学校の建物の「棟・階・部屋」まで指定 | 浅間小学校 北棟(3階特別教室・廊下)、江西中学校 南棟(3階普通教室・特別教室・廊下) |

静岡市と浜松市は、南海トラフ地震津波避難対策特別強化地域に指定されています。地形が平らで高台が近くにない場所では、公園ではなく「タワー」「築山」「建物の3階の廊下」を数え上げるしかない、ということです。
時間の数字も並べておきます。県の津波浸水想定(レベル2)で、静岡市清水区は影響開始時間2分・最大津波到達時間13分。駿河区は3分・16分、浜松市の旧南区は4分・22分、旧西区は5分・23分です。影響開始時間は「海岸線から沖合約30mの地点で初期水位から50cm上がるまでの時間」と定義されています。
静岡駅|津波の避難場所は3km先。ここで怖いのは揺れと火事
静岡駅の標高は15.4mです。地震に対応した指定緊急避難場所は、伝馬公園(約342m・標高18.0m)、森下小学校(約378m・14.2m)、伝馬町小学校(約445m・18.1m)。一方、津波に対応した避難場所は、いちばん近くて中島上公園(約3,154m)です。3km超離れています。つまり静岡駅は、津波の避難場所へ向かう地点ではありません。
代わりに向き合うのは、落ちてくる物と倒れる物、そのあとの火です。静岡市の想定では、駅の南側に広がる駿河区は74.2km²のすべてが震度6強以上で、うち27.6km²が震度7(レベル2・基本ケース)。レベル1では、市の死者の主役は火災 約1,100人と建物倒壊 約1,100人でした。駅を出て、342mの伝馬公園のような広い場所へ。そこから先は動かない。ただし同じ静岡市でも、駿河区の海側には津波避難タワーが並んでいます。駅前と海沿いは別の街だと思ってください。
清水駅|地震の避難場所より、津波の避難先のほうが近い

清水駅の海抜は1.7mです。ここで数字が逆転します。地震に対応した最寄りは清水国際高等学校(約783m)ですが、津波に対応した最寄りは清水駅東口ペデストリアンデッキ(約92m)、次が清水橋(約514m)です。駅の東口の歩道橋デッキそのものが、津波の指定緊急避難場所になっています。逃げ先が「広場」ではなく「橋とデッキ」なのが、この街の特徴です。
その時間が、レベル2で影響開始2分、最大到達13分。県の表では、水位が+3mになるまでが3分です。「まず状況を確かめましょう」という書き方が、清水では成立しません。揺れている間に方向を決めて、収まったらすぐ動く。県は令和5年3月に静岡市の津波浸水想定域を津波災害警戒区域に指定しました。そのほかの津波の避難先は、桜橋公園(約1,462m・標高7.4m)、秋葉山公園(約1,617m・30.1m)。静岡市の説明では、津波避難ビルは一時的に身を守る場所で、警報が解除されたあとは指定避難所等へ移る2段構えです。
浜松駅|逃げ先は「学校の3階の廊下」
浜松駅の標高は4.3mです。地震に対応した最寄りは双葉小学校(約513m・標高4.1m)、東小学校(約924m・5.5m)、野口公園(約974m・6.5m)。津波に対応した最寄りは、浅間小学校 北棟(3階特別教室・廊下)で約1,482m。名前がここまで細かいのが浜松市の特徴です。江西中学校 南棟(3階普通教室・特別教室・廊下)が約1,861m。建物ではなく、建物の中の階と部屋まで指定されています。
だから浜松駅では、まず建物と落下物から身を守り、513mの双葉小学校のような地震対応の場所へ出る。津波は市と気象庁の情報を待って動く、という順番になります。市の地域防災計画には「地震発生後5分程度で津波が来襲すると推定されている」とあります。浜松の沿岸には、T.P.+13〜15m・全延長17.5kmの防潮堤が令和2年3月に完成しました。ただし県が公表している減災効果は馬込川河口部周辺のもので、市域全体の話ではありません。ここまでやってもなお、逃げる話が残っています。
南海トラフ地震臨時情報|警戒宣言は、もう出ません
静岡県のページには、こう書かれています。「近年、国から地震発生時期・規模・位置等の確度の高い予測は困難との考えが示されたことから、東海地震の発生を前提とした予知情報や警戒宣言の発表はなくなりました。」いま出るのは南海トラフ地震臨時情報で、キーワードは「調査中」「巨大地震警戒」「巨大地震注意」「調査終了」の4つです。後発地震が起きないまま1週間が過ぎると、さらに1週間の注意の措置に移ります。
旅行中に出たらどうするか。答えは国のガイドラインに書かれています。「宿泊者、観光目的の滞留旅客等については、宿泊施設等関係者と連携して、運行している公共交通機関の最寄りの乗降場所まで輸送する等帰宅方法をあらかじめ検討しておき」。旅行者の帰り道は、宿泊施設が市町村と一緒に考えておくことになっています。だから、まず泊まっている宿に聞くのが入口です。県のチラシの言葉も添えておきます。「地震の予知ではなく、注意を促す情報です!」。情報が出ないまま突然起きることもある、と気象庁も書いています。
帰れない時|「歩いて帰る人」と「車で帰る人」の協定
静岡市の計画は、帰宅困難者について「一時滞在施設等の確保対策等の検討を進める」という段階の書き方で、施設の名前も想定人数も公表されていません。代わりに県が持っているのが、徒歩帰宅者の支援協定です。原文に「大量の通勤者、通学者、観光客等が徒歩で帰宅する際の支援を行うことを目的とし」とあり、コンビニやファミリーレストランなど10社が平成25年に協定を結んでいます。令和7年12月からは、カーディーラー5社と「車両で帰宅等する際の支援」の協定も始まりました。
食料については、静岡市の計画に「非常持出しができない被災住民や旅行者等に対する食料の最低限の備蓄」とあります。最低限、と市が書いています。県の鉄道の想定も厳しく、震度7となる地域の在来線や私鉄では「運行再開まで発災から1ヶ月以上を要する可能性がある」とされています。
持ち物と、今日できること
静岡と浜松で待つ時間に要るのは、電源、灯り、トイレ、水の入れ物、書類の袋です。建物の上階に長く留まる場面では、羽織る物が先に効きます。旅行のかばんに入る7点は旅行の防災ポーチの記事で選んでいます。
今日できることを1つだけ。行く前に、泊まる場所のいちばん近い指定緊急避難場所を1つ、地図アプリに保存しておきます。1分で終わります。宿の住所か郵便番号をハザードマップかんたん検索に入れると、近くの指定緊急避難場所を国の地図で開けます。静岡では保存するときに、その場所が「地震」だけの対応か、「津波」にも対応しているかを一緒に見てください。県の防災アプリ「静岡県防災」は11言語に対応していて、いまいる場所の避難場所が出ます。入れておけば、清水でも浜松でも同じように使えます。
この記事の出典
- 静岡県『静岡県第4次地震被害想定』第一次報告-概要-(平成25年6月27日)・第二次報告(平成25年11月29日)、同『津波浸水想定について(解説)』
- 静岡市『静岡市地域防災計画 地震対策編』『同 津波対策編』(令和8年1月修正)、同『津波避難施設』(2026年2月20日更新)、同『津波ハザードマップ』
- 浜松市『浜松市地域防災計画 地震・津波対策編』(2026年4月30日更新)、静岡県『静岡モデルの推進』『馬込川水門による減災効果』
- 気象庁『「南海トラフ地震に関連する情報」について』、静岡県『南海トラフ地震臨時情報について』(2026年3月30日更新)、内閣府(防災担当)『南海トラフ地震臨時情報 防災対応ガイドライン』(令和7年8月改訂)
- 静岡県『帰宅困難者対策』(2026年7月15日更新)、同『総合防災アプリ「静岡県防災」』、内閣府『南海トラフ地震防災対策推進地域・津波避難対策特別強化地域 市町村一覧』(令和7年7月)
- 国土地理院「指定緊急避難場所データ」(静岡市分 2026年9月1日更新・浜松市分 2026年5月22日更新)、標高API(2026年9月16日取得)
※避難場所の指定・被害想定・臨時情報の運用は更新されます。この記事は2026年9月16日時点の公的資料をもとに書いています。現地では、いる施設の係員と静岡市・浜松市・静岡県の案内を優先してください。距離は直線距離で、歩く時間ではありません。標高は国土地理院の数値で、建物やデッキの床の高さではありません。

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