三宮の駅前で、南京町の路地で、ハーバーランドの商業施設の中で、大きく揺れた。旅行で来た人が最初に迷うのは「どこへ逃げるか」です。この記事は、神戸の3つの場所について、揺れた直後の1時間に何をするかを、兵庫県と神戸市の公式の資料から書いたものです。旅先で地震にあった時の共通の動き方は旅行先で地震にあったらの記事にまとめています。
結論を先に言います。同じ神戸市中央区で、直線1kmしか離れていない3か所の答えが、全部違います。三宮は待避、元町・南京町は北へ水平避難、ハーバーランドは建物内の垂直避難。この3つはすべて、神戸市が自分の文書に書いている言葉です。街の名前でひとまとめに覚えると、当日に逆の方向へ動くことになります。
私は防災士として、神戸市『都心部における津波避難行動・誘導指針 第二版』(令和4年11月)、神戸市地域防災計画、神戸市帰宅困難者対策基本指針(令和7年4月改定)、兵庫県南海トラフ巨大地震・津波被害想定(平成26年6月)、国土地理院の指定緊急避難場所データと標高を読んでこの記事を書きました。
3地点の結論|待つか、北へか、上へか
| 場所 | 標高 | 神戸市の指針の言葉 | 揺れが収まったら |
|---|---|---|---|
| 三宮(JR三ノ宮駅) | 12.5m | 「三宮駅周辺(浸水想定地域外)」「待避」 | 動かない。南(浜側)へ下りない |
| 元町・南京町 | 2.4m | 「JR以北、さらには山手幹線以北へ水平避難」 | 北へ上がる。約306m先の神戸生田中学校で標高16.6m |
| 神戸ハーバーランド | 2.1m | 「建物内の垂直避難が基本となります」 | 外に出ず、いる建物の上階へ |

標高は国土地理院の数値(2026年9月16日取得)、避難場所は国土地理院の指定緊急避難場所データ(神戸市分・2026年9月10日更新)です。この更新日は、街シリーズでこれまで扱った街の中でいちばん新しいものです。距離は、この記事ではすべて直線距離で書きます。
神戸で想定されている地震|揺れは内陸の断層、津波は南海トラフ
神戸市の地域防災計画が想定地震に据えているのは、南海トラフではありません。山崎断層帯・上町断層帯・中央構造線断層帯と比べて、市の被害が最も大きい「兵庫県南部地震(M7.3)」を想定地震としています。市内震度の最大値7、死者4,571人、全壊67,421棟、避難者236,899人。1995年に実際に起きた地震を、そのまま想定に据えている街です。
津波のほうは南海トラフです。兵庫県の被害想定(平成26年6月3日公表)で、中央区はレベル2で震度6弱、最高津波水位T.P.+3.9m、最短到達91分。この91分の定義に注意してください。神戸市は「最短到達時間は、津波が初期水位より1m上昇する時間」と書いています。海面が動き始める時刻でも、いちばん高くなる時刻でもありません。同じ資料に「津波は50〜60分間隔で何度も来襲し、少なくとも5〜6時間は異常な潮位変動がみられる」ともあります。なお兵庫県の被害想定は令和7年度から2年かけて見直し中です。
揺れの続き方も書かれています。県の被害想定に「揺れは3分程度続く」とあり、市の指針にも「三宮、元町、神戸の都心部では、長周期地震動により、超高層・高層ビルでは、長時間大きなゆれが続く可能性もあります。また、エレベーターでは閉じ込めの発生も想定されます」と書かれています。高層のホテルや商業ビルにいる時、揺れたあとにエレベーターへ向かわないでください。
神戸の分かりにくさ|「緊急避難場所」と「津波緊急待避所」は別
| 呼び名 | 何のための場所か | 指定する人 |
|---|---|---|
| 緊急避難場所(地震・津波・洪水・土砂災害・大火) | 災害種別ごとの1次避難先。原則、浸水想定区域や警戒区域の外 | 神戸市 |
| 津波緊急待避所 | 水平避難が間に合わない人のための垂直避難先。堅牢な建物の原則3階以上 | 地域(地域津波防災計画) |
| 一時退避場所 | 行き場のない帰宅困難者が、一時滞在施設が開くまで退避する公園・広場 | 神戸市と対策委員会 |
| 一時滞在施設 | 行き場のない帰宅困難者を1日から3日程度受け入れる施設 | 神戸市と協定を結んだ事業者 |

大きな火事から逃げる場所は、緊急避難場所の災害種別「大火」として指定されています。指定の基準は10ヘクタール以上の空き地、避難距離はおおむね2km以内。条件が厳しいので、数は多くありません。行動の合言葉も決まっています。市の指針は『落ち着いて、高いところへ』を掲げ、「少なくとも1分間以上揺れが続いたら、津波が来ることを予想して情報収集を行う」と書いています。時計ではなく、揺れの長さで判断します。
もう1つ、混ざりやすい点があります。神戸市は「1000年に一度の確率で発生する津波の対策が、2023年3月に完了しています」「この対策により、人の住む区域は浸水しないと想定されています」と発表しています。一方で、法律にもとづく兵庫県の津波浸水想定図(平成26年2月公表)も、市の避難指針も、いまなお対策前の想定を前提に書かれています。この記事は、避難の話なので後者に合わせます。
三宮|動かない。南へ下りない
JR三ノ宮駅の標高は12.5mで、3地点でいちばん高い場所です。神戸市の指針は、この一帯の見出しを「【三宮駅周辺(浸水想定地域外)】」としています。同じ指針に「0.3m以上の浸水深域は概ねJR鉄道線路まで及んでいます」とあり、駅はその線の上側にあたります。屋外にいる買物客や観光客については「三宮駅周辺には、一時的な滞在場所(三宮センター街)があります。施設の安全性を確認のうえ、来街者の『待避』や『避難者の一時的な受入れ』について協力をお願いします」と書かれています。
それでも動くなら、行き先は磯上公園(約472m・標高3.8m)か東遊園地(約658m・標高5.9m)です。どちらも市の「一時退避場所」に名前が挙がっています。ただしこの2か所は、三宮駅より南(浜側)にあります。市の計画にはこう書かれています。「津波警報発令時等、津波の危険が考えられるときは、まずは津波避難への対応として、浜側への誘導はせず、山側への避難誘導を行う」。津波警報が出ていないことを確かめてから動く。これが三宮でいちばん大事な一行です。
元町・南京町|306m北へ上がると、標高が14m上がる

南京町の標高は2.4mです。神戸市の指針の指示は、はっきりしています。「津波警報等が発表された場合、JR以北、さらには山手幹線以北へ水平避難を行うことが基本になります。」国土地理院のデータも同じ方向を指します。約306m北の神戸生田中学校(北長狭通4丁目)は標高16.6mで、地震にも津波にも対応した指定緊急避難場所。JRの北側です。もっと上がるなら、こうべ小学校(約746m・標高34.2m)があります。
南へ行かないでください。メリケンパーク(約647m・標高2.6m)は、地震には対応していますが、津波は対象外です。市の指針もメリケンパーク周辺地区について「津波浸水深が大きい上、海に面しているため漂流物の危険性もあります」と書いています。こうべまちづくり会館(約518m)も同じです。地区の作りについても、市は「低層の木造建物が点在するとともに細街路が多い地域です」と書いています。揺れている最中に細い路地を走らない、という一行がここで効きます。
ハーバーランド|3地点で、ここだけ答えが逆
ハーバーランドの標高は2.1mで、3地点でいちばん低い場所です。それなのに、神戸市の指示は「逃げろ」ではなく「上がれ」です。原文はこうです。「この地区は、建物敷地における津波浸水深は1m未満です。また、地域内の建物は高層で堅牢な建物が多い状況である一方で、水平避難をするため、国道2号を横断するには、歩道橋を利用しなければなりません。このため、建物内の垂直避難が基本となります。」北へ渡る手段が歩道橋しかないから、というのが理由です。
いちばん近い指定緊急避難場所は産業振興センター(約72m・標高2.3m)で、地震と津波の両方に対応しています。標高はハーバーランドとほぼ同じですから、これは高台ではなく「上がるための建物」です。本当に高い所へ行くなら、中央体育館(約671m・標高13.5m)、中央図書館(約871m・標高29.8m)。どちらも地震・津波の両方に対応していますが、国道2号を渡ることになります。そして地下は通らないでください。市の指針は神戸駅周辺について「地下街もあります。地下街については、浸水します」と書いています。
1995年のこと|震度7の帯と、作り直された仕組み
1995年2月7日、気象庁は現地調査の結果として震度7の範囲を発表しました。その中に「中央区JR三ノ宮駅付近から西宮市阪急夙川駅付近まで」という一節があります。当時の震度階級では震度7だけが現地調査で決められるもので、これがその初めての適用でした。神戸市の集計では、市内の死者は4,571人(2005年12月22日時点)、全壊67,421棟。中央区の数字は死者243人、負傷者3,782人、全焼65棟です。
仕組みも作り直されました。1996年10月に震度階級が8段階から現在の10段階になり、震度7も計測震度計で速報できるようになりました。そして神戸市は、地域防災計画の教訓の項にこう書いています。「大規模災害時に都市部が抱える課題については、阪神・淡路大震災が早朝に発生したため、さほど顕在化しなかった」「神戸の都心部は津波浸水想定区域に含まれるため…来街者などに配慮した津波避難計画や帰宅困難者対策などを検討する必要がある」。5時46分でした。三宮に来街者があふれる時刻ではありませんでした。次が同じ時刻とは限りません。
帰れない時|休日のほうが、行き場のない人が多い
神戸市の推計は、旅行者にそのまま当てはまります。中央区の平日は、帰宅困難者 約20万人のうち行き場のない人が約1.8万人。休日は、帰宅困難者 約13.3万人のうち行き場のない人が約4.6万人です。人数は減るのに、行き場のない人は2倍以上に増えます。市の地域防災計画の言葉はこうです。「従業員等を除く来街者が多い土日祝日などは、行き場のない滞留者が多くいる」。旅行者が街にいるのは、まさにその曜日です。
受け入れ先は、三宮と元町の側に集まっています。神戸国際会館、神戸文化ホール、神戸サンボーホール、兵庫県教育会館、そして神戸ポートピアホテル、ホテルオークラ神戸といったホテルが一時滞在施設の協力事業者です。一方、ハーバーランドには一時滞在施設が1つもありません。この地区の避難対象者は平日約2.3万人、休日約2.4万人と見込まれています。開設の条件も決まっていて、市の計画は「施設が一時滞在施設として活用可能な状態である場合」に開設するとしています。必ず開くわけではありません。市の合言葉は「STOP!一斉帰宅」で、理由は群衆なだれです。
持ち物と、今日できること
神戸で待つ時間に要るのは、電源、灯り、トイレ、水の入れ物、書類の袋です。建物の上階で5〜6時間待つ場面では、羽織る物と電源が先に効きます。旅行のかばんに入る7点は旅行の防災ポーチの記事で選んでいます。
今日できることを1つだけ。行く前に、泊まる場所のいちばん近い指定緊急避難場所を1つ、地図アプリに保存しておきます。1分で終わります。神戸では保存するときに、その場所が「地震」だけの対応か、「津波」にも対応しているかを一緒に見てください。もう1つ、神戸には街の中で確かめられるものがあります。道案内の地図「まちかど案内サイン」には海抜が書き足され、津波避難情報板も都心部に7か所あります。歩きながら、自分がいま何mの場所にいるかが分かります。
この記事の出典
- 神戸市『神戸市都心部における津波避難行動・誘導指針 第二版』(令和4年11月)、同『都心部における津波避難情報の発信』
- 神戸市『神戸市地域防災計画』共通編・地震津波対策編(令和8年4月更新版)、同『南海トラフ地震防災対策推進計画』(令和8年3月)
- 神戸市『神戸市帰宅困難者対策基本指針』(令和7年4月改定)、『神戸都心・臨海地域帰宅困難者対策計画 第九版』(令和7年3月)
- 兵庫県『兵庫県南海トラフ巨大地震・津波被害想定』(平成26年6月3日)、同『南海トラフ巨大地震津波浸水想定図』(神戸地区・平成26年2月19日公表)、同 知事コメント(令和7年3月31日)
- 神戸市『阪神・淡路大震災の概要』『阪神・淡路大震災被害の状況』、気象庁『阪神・淡路大震災を契機とした震度観測の改善』、神戸市『1000年に一度の津波対策完了』(2026年6月17日更新)
- 国土地理院「指定緊急避難場所データ」(神戸市分 2026年9月10日更新)、標高API(2026年9月16日取得)
※避難場所の指定・一時滞在施設・被害想定は更新されます。この記事は2026年9月16日時点の公的資料をもとに書いています。現地では、いる施設の係員と神戸市の案内を優先してください。距離は直線距離で、歩く時間ではありません。標高は国土地理院の数値で、建物の高さではありません。

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