東京駅の丸の内側で、浅草の仲見世で、渋谷のスクランブル交差点で、大きく揺れた。旅行や出張で来た人が最初に迷うのは「どこへ逃げるか」です。この記事は、東京の3つの場所について、揺れた直後の1時間に何をするかを、東京都と区の公式の指定から書いたものです。旅先で地震にあった時の共通の動き方は旅行先で地震にあったらの記事にまとめています。
結論を先に言います。東京駅前と渋谷駅周辺は、東京都が「避難場所へ動かなくていい地区」に指定しています。浅草は逆に「避難場所へ避難する地区」で、行き先は隅田公園一帯です。ただし浅草二丁目は番地で行き先が分かれます。この違いを知らずに動くと、動かなくていい場所から人が流れ出し、動くべき場所で人が留まります。
私は防災士として、東京都都市整備局の避難場所の指定(第9回・2022年9月1日適用)、東京都防災会議の被害想定(2022年5月)、東京都帰宅困難者対策条例、千代田区・台東区・渋谷区の公式資料、国土地理院の指定緊急避難場所データと標高を読んでこの記事を書きました。読み終わる頃には、3つの場所それぞれで「動くか、待つか」が決まります。
3地点の結論|動くか、待つか
| 場所 | 標高 | 都の指定 | 揺れが収まったら |
|---|---|---|---|
| 東京駅前(丸の内) | 3.6m | 地区内残留地区 | 動かない。いる建物の中で待つ |
| 浅草(浅草寺周辺) | 3.6m | 避難場所へ避難 | 火災が広がるなら隅田公園一帯へ。浅草二丁目13〜27番地と西浅草は上野公園一帯へ |
| 渋谷(スクランブル交差点周辺) | 15.2m | 地区内残留地区 | 動かない。いる建物の中で待つ |

標高は国土地理院の数値(2026年9月9日取得)、指定は東京都都市整備局の第9回指定です。「動かない」は、大規模な延焼火災から逃げるための移動が要らない、という意味です。建物が壊れない、火が出ないという意味ではありません。いる建物が危なければ、その建物の係員の案内で外に出ます。
東京で想定されている地震|震度6強以上が区部の約6割
東京都が本命にしている想定は、都心南部直下地震(M7.3)です。2022年5月に公表された被害想定では、冬の夕方18時、風速8mの条件で、震度6強以上の範囲が区部の約6割に広がり、死者6,148人、避難者約299万人、帰宅困難者約453万人と見込まれています。建物被害19万4,431棟のうち火災による焼失が11万2,232棟で、揺れより火災の被害が大きい想定です。東京の避難場所が「火災から逃げる場所」として組まれている理由はここにあります。
津波については、大正関東地震(M8クラス)の想定で東京湾内の津波高が最大約2〜2.6m。区ごとの最大津波高が示されているのは中央・江東・港・品川・大田・江戸川と埋立地で、千代田区・台東区・渋谷区の数値は資料にありません。台東区は公式に「都の被害想定によると、台東区には津波被害はありません」と書いています。法律に基づく津波浸水想定は、東京都では島しょ地域だけが対象です。南海トラフ巨大地震の場合、区部の震度はほぼ5強以下です。
東京の避難場所は二階建て|都の「避難場所」と区の「指定緊急避難場所」
| 呼び名 | 指定する人 | 何のための場所か |
|---|---|---|
| 避難場所(広域避難場所) | 東京都 | 震災時の大規模な延焼火災が鎮火するまで待つ、公園や緑地などの屋外。原則、建物の中は使わない |
| 地区内残留地区 | 東京都 | 不燃化が進み、大規模な延焼火災のおそれがない地区。避難場所が割り当てられていない |
| 指定緊急避難場所 | 区 | 洪水・高潮・地震など災害の種類ごとに区が指定。国土地理院のデータに載るのはこれ |
| 避難所 | 区 | 家に戻れない人が生活する場所 |

ここが東京の分かりにくさの中心です。国土地理院のデータだけを見ると、台東区と渋谷区は地震の避難先がゼロに見えます。台東区の指定緊急避難場所は全件が洪水・高潮用で、備考に「荒川が氾濫するおそれがある場合は、開設しない」と書かれています。渋谷区は指定緊急避難場所のデータを国土地理院に出していません。東京で「地震の時にどこへ行くか」を決めているのは、区のデータではなく、東京都の避難場所と地区内残留地区の指定です。最新は第9回指定で、都内に避難場所221か所、地区内残留地区40地区があります。
東京駅前(丸の内)|動かない。千代田区は全域が「逃げなくていい」
丸の内一〜三丁目、大手町、有楽町、日比谷公園は、東京都の第9回指定で「地区内残留地区301(千代田区、秋葉原、上野地区)」です。この地区の面積は約1,174ha、地区内で退避する人口は86万8,494人。千代田区は2003年2月10日に区内の全ての広域避難場所の指定を解除し、一時集合場所も解除しています。区の説明は「震災時に大規模な延焼火災の危険性が比較的少ないと認められました」です。
だから東京駅前で揺れた時、揺れが収まった後にやることは「どこかへ逃げる」ではありません。いる建物の中で、係員の案内を待つ。駅ビル、オフィスの低層階、百貨店は、東京都帰宅困難者対策条例で利用者の施設内待機の案内と安全な場所への誘導に努める義務があります。東京都も「施設の中にいて被災した場合はその施設に安全にとどまることが基本」と説明しています。
屋外にいて建物に入れない時、区が災害対策基本法で地震用に指定している指定緊急避難場所は、直線で最も近い所で区立スポーツセンター(内神田、約880m)、旧今川中学校(鍛冶町、約1.3km)、神田さくら館(神田司町、約1.4km)です。標高はいずれも4〜5m台。距離は直線で、歩く時間ではありません。
浅草|隅田公園一帯へ。ただし番地で行き先が分かれる

3地点の中で、浅草だけが「避難場所へ避難」の地区です。浅草寺の住所は浅草二丁目3番1号で、割り当ては避難場所166「隅田公園一帯」。浅草一〜七丁目、雷門、花川戸も同じです。ただし浅草二丁目の13〜27番地と西浅草一〜三丁目は、避難場所28「上野公園一帯」に割り当てられています。同じ「浅草」でも番地で行き先が2つに分かれるので、泊まる宿の住所で確かめます。
隅田公園一帯の規模は、避難有効面積7万935㎡に対して避難計画人口5万6,786人。1人あたり1.2491㎡です。畳1枚が約1.62㎡なので、それより狭い計算になります(この比較は私の換算で、都の資料の言葉ではありません)。最も遠い地点からの距離は1.3km。人が集まる場所なので、避難場所へ動くのは「火災が広がっている時」で、揺れただけでは動きません。
注意が1つあります。浅草の近くにある浅草小学校や田原小学校は、国土地理院のデータでは「指定緊急避難場所」ですが、対応する災害は洪水・高潮・内水氾濫で、地震は含まれていません。地震の時の避難先として選ばないでください。浅草の標高は3.6mで、台東区は津波被害の想定がありません。
渋谷|動かない。ただし3軒に1軒が断水する想定
スクランブル交差点の周り、宇田川町・道玄坂・渋谷一〜三丁目・神南・桜丘町は、すべて「地区内残留地区304(渋谷地区)」です。面積約375ha、地区内で退避する人口は19万1,122人。第9回指定では、恵比寿南、松濤二丁目、神宮前五・六丁目、神泉町が前回の「避難場所へ避難」からこの地区に変わりました。例外は渋谷四丁目(避難場所65「青山学院・実践女子学園一帯」)と神宮前一〜四丁目(避難場所64「明治神宮・代々木公園一帯」)です。
渋谷の標高は15.2mで、3地点の中で最も高い場所です。動き方は東京駅前と同じで、いる建物の中で係員の案内を待ちます。渋谷区が出している数字を並べます。都心南部直下地震で、渋谷区の帰宅困難者は23万7,837人、渋谷駅周辺4k㎡だけで24万6,502人。断水率は32.3%で、都全体の26.4%より高い。エレベーターの停止は1,084台。渋谷で待つ間に困るのは、逃げ場ではなくトイレと水です。
渋谷区は指定緊急避難場所のデータを国土地理院に公開していないので、区が指定する場所は渋谷区の防災ポータルで確かめます。
帰れない時|一時滞在施設は帰宅困難者の約12%分
東京都帰宅困難者対策条例(2012年3月30日公布、条例第17号)は、都民に「むやみに移動しないよう努める」ことを求め、事業者には従業者の3日分の飲料水と食糧の備蓄、鉄道会社と百貨店などの集客施設には利用者の施設内待機の案内と誘導を求めています。条例の「帰宅困難者」には、買い物や来店で来た人が含まれます。旅行者も同じ扱いです。
屋外で被災した人の受け入れ先が一時滞在施設です。東京都の一時滞在施設は1,310か所、53万3,644人分(2026年1月1日現在)。帰宅困難者の想定は約453万人なので、都の公表値どうしを割ると約12%です。この割り算は私の計算で、都が公表している比率ではありません。千代田区の一覧には「発災時に以下の施設が必ずしも開設されるわけではありません。必ず開設状況を確認して避難するようお願いします」と書かれています。東京都は、大地震の後およそ72時間は救命救助が最優先になると説明しています。この3日間を、施設が開くのを待つ側として過ごす前提で、持ち物を決めます。
観光客が使える情報源|多言語の案内と入館登録
東京都は2026年3月31日に、外国人旅行者向けの「TOKYO Disaster Action Guide & Map」を本格稼働させました。地震後の行動を3ステップ(身体保護・情報収集・安全確保)で示し、観光エリア別の一時滞在施設の情報が載っています。日本語・英語・中国語・韓国語に対応し、日本人の旅行者にも使えます。同じ仕組みの「キタコンDX」は、GPSで帰宅困難者に情報を出し、LINEとウェブから一時滞在施設への入館登録ができます。東京都防災アプリには「やさしい日本語」とキッズモード・シニアモードがあります。旅行の前にアプリを入れ、泊まる場所の周りを一度見ておくと、当日に探さずに済みます。
持ち物と、今日できること
東京で待つ3日間に要るのは、電源、灯り、トイレ、水の入れ物、書類の袋です。渋谷区の断水率32.3%が示すように、東京で困るのは逃げ場より水とトイレです。旅行のかばんに入る7点は旅行の防災ポーチの記事で選んでいます。
今日できることを1つだけ。泊まる場所の住所を、東京都都市整備局の「避難場所等の指定」の一覧で確かめてください。「地区内残留地区」なら動かない、「避難場所へ避難」なら行き先の公園を地図アプリに保存する。1分で終わります。浅草のように番地で分かれる地区は、番地まで見ます。
この記事の出典
- 東京都都市整備局『震災時火災における避難場所及び避難道路等の指定(第9回指定)』(2022年7月指定・2022年9月1日適用)、避難場所一覧表、地区内残留地区一覧表、避難場所等の定義
- 東京都防災会議『首都直下地震等による東京の被害想定』(2022年5月25日公表)、渋谷区『渋谷区における被害の様相』(2025年5月版)、台東区『南海トラフ地震が発生した場合の台東区の被害について』
- 東京都帰宅困難者対策条例(2012年3月30日 条例第17号)、東京都防災ホームページ「一時滞在施設などの情報」(2026年1月1日現在)、千代田区防災ポータル「帰宅困難者一時滞在施設一覧」、千代田区「広域避難場所の指定解除」
- 東京都防災ホームページ「外国人旅行者に対する帰宅困難者対策、本格稼働!」(2026年3月31日)、東京都防災アプリ
- 国土地理院「指定緊急避難場所データ」(千代田区 2025年3月10日更新・台東区 2026年1月21日更新)、標高API(2026年9月9日取得)
※避難場所の指定・一時滞在施設の開設・被害想定は更新されます。この記事は2026年9月11日時点の公的資料をもとに書いています。現地では、いる施設の係員と東京都・区の案内を優先してください。避難場所までの距離は直線距離で、歩く時間ではありません。

コメント