広島駅の南口で、平和記念公園の慰霊碑の前で、宮島の厳島神社で、大きく揺れた。旅行で来た人が最初に迷うのは「どこへ逃げるか」です。この記事は、広島と宮島の3つの場所について、揺れた直後の1時間に何をするかを、広島県・広島市・廿日市市の公式の資料から書いたものです。旅先で地震にあった時の共通の動き方は旅行先で地震にあったらの記事にまとめています。
結論を先に言います。平和記念公園は、地震と大規模な火事の避難場所に指定されていますが、津波には対応していません。公園は元安川と本川に挟まれた中州です。津波から逃げるなら、橋を渡って川の外に出ることになります。宮島はその逆で、逃げ込む先のほとんどが旅館とホテルです。街と島で、逃げ方の形が違います。
私は防災士として、広島県地震被害想定調査(令和7年10月)、広島市の津波ハザードマップと小学校区ごとの防災カルテ、広島市の帰宅困難者対策、廿日市市地域防災計画(令和7年10月)、国土地理院の指定緊急避難場所データと標高を読んでこの記事を書きました。読み終わる頃には、3つの場所それぞれで最初に向かう先が決まります。
3地点の結論|動くか、渡るか
| 場所 | 標高 | 近くの避難場所の対応 | 揺れが収まったら |
|---|---|---|---|
| 広島駅前(南口) | 2.1m | 駅のすぐ近くの集会所は地震も津波も対象外 | 段原小学校(約670m・津波は2階以上)へ。高台なら比治山公園(約1,474m・標高43.7m) |
| 平和記念公園 | 2.6〜4.5m | 公園は地震と大規模な火事のみ。津波は対象外 | 火事なら公園に残る。津波警報が出たら橋を渡り、本川小学校(約407m)か袋町小学校(約581m・2階以上)へ |
| 宮島(厳島神社) | 1.0m | 地震と津波の両方に対応した宿が並ぶ | 宮島グランドホテル 有もと(約185m・標高16.4m)やetto宮島交流館(約198m)へ |

標高は国土地理院の数値(2026年9月9日取得)、避難場所の対応は国土地理院の指定緊急避難場所データ(広島市分は2026年8月21日更新、廿日市市分は2026年1月9日更新)です。距離は、この記事ではすべて直線距離で書きます。
広島で想定されている地震|4時間ではなく、30分で始まる
広島県は令和7年10月に、被害想定を12年ぶりに作り直しました。南海トラフ巨大地震(Mw9.0)で、広島市も廿日市市も最大震度6弱。広島市の最高水位はT.P.3.6m、津波の高さ1.4m、最大波の到達は242分(4時間2分)です。廿日市市は3.5m・1.5m・218分。県全体では建物の全壊と焼失が約9万棟(うち液状化 約4万5千棟)、死者 約1万4千人(うち津波 約1万3千人)と見込まれています。広島の想定は南海トラフだけではありません。安芸灘〜伊予灘〜豊後水道の地震で県南部を中心に最大震度6強、岩国−五日市断層帯の地震で県西部を中心に最大震度6強が想定されています。
ここで、数字の読み方を1つ。広島市の津波ハザードマップにはこう書かれています。「最大波到達時間は、地震発生後約4時間と想定されていますが、津波の影響は、早いところで約30分後に出始めるため、速やかに安全な場所に逃げてください」。安芸灘断層群による地震なら「地震発生後すぐに津波の影響が出始める」とも書かれています。さらに、水面より地面が低い場所では、堤防等が壊れて「津波が到達する前に浸水が始まることがあります」。4時間は、待っていい時間ではありません。
揺れそのものの想定も見ておきます。広島市の平成25年度の調査では、中区で液状化危険度が「極めて高い」とされた面積が、想定する地震によって89.5〜99.4%を占めます。10cm以上沈む範囲は面積の99.4%。これは面積の割合であって、建物の99%が傾くという数字ではありません。太田川が運んだ砂の上に、街の中心がまるごと乗っているということです。
広島の分かりにくさ|同じ場所でも、対応する災害が違う
| 呼び名 | 何のための場所か | 広島での様子 |
|---|---|---|
| 指定緊急避難場所 | 市が災害の種類ごとに指定する、命を守るために逃げ込む場所 | 平和記念公園は「地震」と「大規模な火事」。津波は対象外 |
| 指定避難所 | 家に戻れない人が生活する場所 | 市の防災カルテの注記は「指定避難所は、避難生活を送るための施設で、津波から避難するための施設ではありません」 |
| 一時滞在施設 | 帰宅困難者を受け入れる場所 | 市立小学校等212施設に加え、民間35施設(令和8年1月6日時点) |
| 災害時帰宅支援ステーション | 歩いて帰る人に水道水・トイレ・道路情報を出す店 | 広島県内に約1万か所 |

広島でいちばん間違えやすいのがここです。広島駅のすぐそばにある大須賀集会所(約232m)、若草集会所(約423m)、二葉集会所(約594m)は、地震も津波も対象外です。近さで選ぶと、災害の種類が合っていない場所に着きます。国土地理院のデータでも市のハザードマップでも、その場所が何の災害に対応しているかは必ず書いてあります。見るのはそこです。
広島駅前|いちばん近い場所ほど、対象外
南口駅前広場付近の標高は2.1mです。広島市の津波ハザードマップでは、この一帯(荒神町・幟町・大州・段原・皆実・比治山・大河の小学校区)が対象区域として作られています。荒神町小学校区の防災カルテには、安芸灘〜伊予灘〜豊後水道の地震を想定した数字が載っています。最大震度6弱、液状化危険度の最大値は「極めて高い」、津波浸水面積32.6ha、最大浸水深1.6m。1日後の避難所への避難者は約630人と見込まれています。
地震に対応した最寄りは荒神町小学校(約649m・標高1.2m)ですが、ここは津波が対象外です。地震と津波の両方に対応しているのは、段原小学校(約670m・標高1.9m・津波は2階以上)と幟町小学校(約844m・標高2.1m・津波は2階以上)。そして駅前から見て南に、標高43.7mの比治山公園(約1,474m)があります。広島駅の周りで本格的な高台と呼べるのはここだけです。津波警報が出た時に頭に入れておく方向は、南です。
平和記念公園|川に囲まれた中州にいる
原爆ドーム付近の標高は4.4m、慰霊碑の付近は2.6m、元安橋の付近は4.5m。公園は元安川と本川(旧太田川)に挟まれた中州です。中島小学校区の防災カルテによると、津波浸水面積47.8ha、最大浸水深2.3m。想定死者は約62人で、そのうち約60人が津波によるものです。この地区で人の命に関わるのは、揺れよりも水だと市が見込んでいます。
平和記念公園そのものが指定緊急避難場所です(登録されている地点は慰霊碑から約58m)。ただし対応は「地震」と「大規模な火事」で、津波は含まれていません。津波にも対応しているのは、北西へ約407mの本川小学校、東へ約581mの袋町小学校(津波は2階以上)、北へ約998mの中央公園広場エリア(標高4.8m)、北東へ約1,227mの広島城跡(標高6.9m)です。揺れただけなら公園にいてよく、津波警報が出たら橋を渡る。この2つを分けて覚えてください。市の資料の言い方は「直ちに高台や津波に対応した指定緊急避難場所に避難しましょう」「屋外の移動に危険が伴う場合には、建物内の安全な場所(上階)に待機しましょう」です。
宮島|逃げ込む先が、旅館とホテル

厳島神社の標高は1.0m、宮島桟橋は2.9mです。厳島神社から近い指定緊急避難場所を順に並べると、宮島グランドホテル 有もと(約185m・標高16.4m)、etto宮島交流館(約198m・8.1m)、聚景荘(約280m・16.0m)、旅彩のお宿 水羽荘(約322m・3.5m)、国民宿舎みやじま杜の宿(約487m・4.7m)、ホテルみや離宮(約496m・2.6m)、宮島ホテル まこと(約572m・16.9m)、宮島福祉センター(約1,429m・20.9m)。そのほとんどが旅館・ホテル・宿です。いずれも地震と津波の両方に対応しています。
理由は協定です。廿日市市は宮島旅館組合と「災害時における指定緊急避難場所としての使用に関する協定書」を結び、宮島観光協会と旅館組合とは避難誘導の協定を結んでいます。市の地域防災計画には「旅館・ホテル等の観光施設管理者は、災害時には的確に観光客等の避難誘導を行い、安全確保に努める」と書かれています。泊まっていない宿でも、逃げ込む先になります。ただし桟橋のすぐそばの宿は洪水・高潮だけ、宮島学園は洪水・崖崩れ・高潮の指定で、どちらも地震と津波は対象外です。ここでも、近さで選ばないでください。市の避難の原則は「避難は、原則徒歩とする」です。
帰れない時|島は孤立する前提で書かれている
廿日市市の地域防災計画には、はっきり書かれています。「宮島地域は、災害時において船舶の運行停止や桟橋の被災などにより島全体が孤立することが考えられる」。宮島の来島者は2025年で約497万人です。一方、観光客の受け皿は「宿泊・集会施設事業者と提携を進め、観光客が一時滞在できる体制を構築する」という段階の書き方で、何か所あるという形では公表されていません。船が止まった時、島で夜を越す側になる可能性があります。
広島市側の受け皿は、市立小学校等212施設に加えて民間35施設(令和8年1月6日時点)。内訳は広島駅周辺12、広島バスセンター周辺21、広島港・千田町周辺2です。ただし市の説明はこうです。「広島市において、災害の規模や被害の状況等を見極めた上で必要と判断した場合に、各施設へ支援要請を行います」。一時滞在施設は、自動では開きません。市の呼びかけは「まずは、むやみに移動を開始しないで、安全な場所にとどまることが大切です」。歩いて帰ろうとする人が道路にあふれると、緊急車両が通れなくなるからです。
観光客が使える情報源|8言語のアプリが県内共通
広島県と県内の市町が共通で使っている「ひろしま避難誘導アプリ 避難所へGo!」は、日本語・英語・中国語(簡体字と繁体字)・韓国語・ポルトガル語・スペイン語・フィリピノ語・ベトナム語の8言語に対応しています。GPSで最寄りの開設中の避難所への経路が出ます。市町をまたいで使えるので、広島市に泊まって宮島へ渡る日も、同じアプリのままで足ります。1つ注意を。廿日市市の地震防災マップのページには「広島県地震被害想定の見直しに伴い、今後地震防災マップも修正予定です」と書かれています。図は令和7年10月の新しい想定がまだ反映されていない版です。
持ち物と、今日できること
広島で待つ時間に要るのは、電源、灯り、トイレ、水の入れ物、書類の袋です。宮島で坂を上がるなら靴が効き、船が動かない間を屋外で待つなら羽織る物が効きます。旅行のかばんに入る7点は旅行の防災ポーチの記事で選んでいます。
今日できることを1つだけ。行く前に、泊まる場所のいちばん近い指定緊急避難場所を1つ、地図アプリに保存しておきます。1分で終わります。宿の住所か郵便番号をハザードマップかんたん検索に入れると、近くの指定緊急避難場所を国の地図で開けます。広島では保存するときに、その場所が「地震」だけの対応か、「津波」にも対応しているかを一緒に見てください。平和記念公園の周りに泊まるなら、津波に対応した場所をもう1つ足します。宮島に泊まるなら、その宿が指定緊急避難場所かどうかを見ておきます。
この記事の出典
- 広島県『広島県地震被害想定調査結果(概要版)』(令和7年10月・2025年11月14日掲載)、同『第2編 直下の地震』
- 広島市『広島市津波ハザードマップ』情報学習面(2026年6月30日更新)、同『中島小学校区 防災カルテ』『荒神町小学校区 防災カルテ』、同『広島市の地震被害想定』(平成25年度広島市地震被害想定調査)
- 広島市『帰宅困難者対策 できる備えを日頃から』(2026年2月13日更新)、同『ひろしま避難誘導アプリ「避難所へGo!」』
- 廿日市市『廿日市市地域防災計画(一般対策編)』(令和7年10月)、同『宮島来島者数一覧表』、同『地震防災マップ』(2025年12月1日掲載)
- 国土地理院「指定緊急避難場所データ」(広島市分 2026年8月21日更新・廿日市市分 2026年1月9日更新)、標高API(2026年9月9日取得)
※避難場所の指定・一時滞在施設・被害想定は更新されます。この記事は2026年9月16日時点の公的資料をもとに書いています。現地では、いる施設の係員と広島市・廿日市市の案内を優先してください。距離は直線距離で、歩く時間ではありません。標高は国土地理院の数値で、建物の高さではありません。

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