「物を減らした家は、地震のときに安全なのか。それとも備えが足りないのか」。持ち物を絞って暮らしている方から、こんなご相談があります。部屋はすっきりしているのに、防災の記事を読むと「あれも、これも」と増やす話ばかりで、どこまで持てばいいのか分からなくなる、という声です。
結論を先に言います。物が少ない家は、揺れている最中と直後には強い家です。弱いのは、揺れのあとの1週間です。倒れてくる物、散らばる物、逃げ道をふさぐ物が少ない部屋は、国や消防がすすめている形そのもの。一方で、水とトイレが家にない、買いに行けない、スマホ1台に頼りすぎる、の3つが弱点になります。
私は四国に住む防災士です。東京消防庁のハンドブック、内閣府の資料と国の南海トラフ地震の計画、能登半島地震の国土交通省・総務省の資料を2026年10月1日に読み、書いてある数字だけでまとめました。読み終わる頃には、自分の家の強い所と弱い所が分かり、置き場所を増やさずに弱い所を埋める手順が手に入ります。
先に結論|揺れには強く、揺れのあとの1週間に弱い
地震の被害は、揺れている数分と、その後の暮らしの数日から数か月に分かれます。物が少ない家は、前半に強く、後半に弱い形です。場面ごとに並べると、こうなります。
| 場面 | 物が少ない家 | 理由 |
|---|---|---|
| 揺れている最中 | 強い | 倒れる家具・落ちる物が少ない。地震のけがの約30〜50%は家具類の転倒・落下・移動が原因(東京消防庁) |
| 部屋から逃げる時 | 強い | 通路や出入口をふさぐ物が少ない |
| 揺れの直後の足元 | 強い | 割れて散らばる食器や小物が少ない。片付ける量も少ない |
| 最初の3日間 | 弱い | 国の計画は、最初の3日間を家庭と自治体の備蓄でしのぐ前提。家に水とトイレが少ない |
| 断水が続く間 | 弱い | 「必要になったら買う」が効かない。能登半島地震では水道本管の復旧に約5か月 |
| 連絡と情報 | 弱い | スマホ1台に情報・明かり・お金・連絡先が集まっている |

強い所は、今の暮らしをそのまま続ければ保てます。やることは、弱い所の3つを、置き場所を増やさずに埋めることだけです。順番に見ていきます。
強い所1|倒れてくる物が少ない
東京消防庁の調査では、近年の地震でけがをした人のうち、約30〜50%が家具類の転倒・落下・移動によるものでした。家が壊れなくても、部屋の中の物が動くだけで、けがは起きます。
内閣府の防災情報のページは、この数字を紹介したうえで、「なるべく部屋に物を置かないことが大切」と書いています。東京消防庁のハンドブックも、対策の1番目に「納戸やクローゼット、据え付け収納家具への集中収納により、努めて生活空間に家具類を置かない」ことを挙げています。家具を固定する金具の話は、その後です。
背の高い本棚を置かず、寝る場所の周りに何もない部屋は、国と消防がすすめる順番の1番目を、すでに済ませている部屋です。物を減らした暮らしは、地震の備えとして遠回りではありません。
強い所2|逃げ道がふさがりにくい
東京消防庁は、家具が動いたときの危険を「ケガ」「火災」「避難障害」の3つにまとめています。3つめの避難障害は、出入口の近くの家具が倒れて扉をふさぎ、部屋から出られなくなることです。引き出しが飛び出して、つまずくこともあります。
総務省消防庁の資料によると、阪神・淡路大震災の震度7の地域では、家が全壊も半壊もしなかったのに、約6割の部屋で家具が倒れ、部屋全体に物が散らばりました。家が無事でも、部屋の中は通れなくなることがある、という記録です。
廊下に物を置かない、玄関に靴や段ボールを積まない。物が少ない家では、これが特別な対策ではなく普段の姿です。夜中に揺れても、寝る場所から玄関まで、何も越えずに歩ける家は強い家です。
強い所3|割れて散らばる物が少ない
同じ総務省消防庁の資料は、揺れで食器棚の扉が開き、中の食器が散らばった様子を記録しています。東京消防庁のハンドブックは、揺れのあとに避難する場所に厚手の手袋と底の厚い履物を用意するよう書いています。散らばった陶器やガラスで、けがをしないためです。
食器が家族の人数分だけ、飾り物がほとんどない家は、床に散らばる破片の量そのものが少なくなります。揺れのあと、暗い中で足を切る危険が減り、片付けにかかる時間も短くなります。
ただし、窓ガラスは物の量に関係なく残ります。強い所は「少ない」であって「ゼロ」ではありません。次の章で、物が少ない家にも残る危険を確かめます。
物が少なくても残る3つ|冷蔵庫・テレビ・窓
総務省消防庁の資料には、揺れで冷蔵庫が動き、テレビや電子レンジが飛んだという記録があります。物を減らした家でも、冷蔵庫と洗濯機、テレビやパソコンの画面、窓は残ります。この3つだけは、物の量では防げません。
| 残る物 | 揺れで起きること | 今日できる対策 |
|---|---|---|
| 冷蔵庫・洗濯機 | 重いまま動く。倒れると通路をふさぐ | 冷蔵庫の前と、その先の通路に物を置かない。背面を壁に固定するベルトは、取扱説明書で付け方を確かめる |
| テレビ・パソコンの画面 | 台から落ちる、飛ぶ | 寝る場所と座る場所の正面から外す。台に固定するか、低い位置に置く |
| 窓ガラス | 割れて室内に散る | 頭を窓に向けて寝ない。寝る場所の近くの窓に飛散防止フィルムを貼る |
東京消防庁のハンドブックは、「寝る場所」や「座る場所」にはなるべく家具を置かないこと、窓際には重い物や倒れやすい物を置かないことを求めています。物が少ない家なら、配置を変えるだけで済むことが多いはずです。
賃貸で壁に穴を開けられない場合の固定の方法は、寝室の防災の記事に書いています。寝ている位置から見直すと、残る危険がどこにあるかがすぐ分かります。
弱い所1|家に「1週間分」の水とトイレがない
政府の案内では、家庭の備蓄は3日分が基本で、飲み水は1人1日3リットルが目安です。そのうえで、大規模な災害では「1週間分」の備蓄が望ましいとしています。飲み水とは別に、トイレを流すための生活用水も要ります。
1人暮らしで1週間なら、飲み水だけで21リットル。2リットルのペットボトルで11本です。物を減らした家で、これだけの水が普段からある家は多くありません。「水はその日に飲む分だけ買う」という暮らし方は、平時には合理的です。揺れのあとには、その前提が崩れます。
水より先に困るのがトイレです。断水すると、水洗トイレは流せません。内閣府のトイレのガイドラインは、排せつの回数は1日5回が平均的だとしています。1人で1週間なら35回分です。トイレは、ほかの物で代わりがききにくい備えです。水は給水所でもらえても、トイレの回数は減らせません。
携帯トイレは、凝固剤と袋だけでできています。同じ1週間分でも、水の箱より場所を取りません。物を増やしたくない家こそ、最初に選びたい1つです。防臭力とコスパで比べた非常用トイレおすすめ10選に、選び方と注意点をまとめています。携帯トイレと簡易トイレの違いはこちらの記事で説明しています。
弱い所2|「必要になったら買う」が効かない期間がある
物を減らす暮らしは、「いつでも買える」ことが前提です。店が開いていて、道が通れて、物が届く。大きな地震は、この3つを同時に止めます。
国の『南海トラフ地震における具体的な応急対策活動に関する計画』(令和7年6月30日)は、南海トラフ地震では家庭や自治体の備蓄が数日で尽き、民間の供給力も落ちると想定しています。そのうえで、「発災から3日間は家庭等の備蓄と被災地方公共団体における備蓄で対応すること」を前提に計画を立てています。国が要請を待たずに送る物資は、4日目から7日目の分を見込み、被災した府県に届ける仕組みです。家の玄関に届くわけではありません。
能登半島地震では、6県の38の水道事業者で最大約13.6万戸が断水しました。石川県で水道の本管の復旧が済んだのは、輪島市と珠洲市の一部の地域を除いて、2024年5月31日です。1月1日の地震から約5か月かかり、家の中の配管の工事はその後も続きました(国土交通省)。
四国の南海トラフ地震で、何日で店や水道が戻るかは誰にも分かりません。分かっているのは、国の計画が最初の3日間を家庭に任せていることです。ここを「そのとき買う」で埋めることはできません。臨時情報が出た週の動き方は、南海トラフ臨時情報の1週間の記事に書いています。
弱い所3|スマホ1台に、情報も明かりもお金も寄せている
物を減らすと、スマホが何役もこなすようになります。ニュースを見る、家族に連絡する、夜道を照らす、支払う、連絡先を覚えておく。便利な分、スマホが使えなくなると、この全部が同時に止まります。
総務省の資料では、能登半島地震のあと、NTTドコモの携帯電話は、影響のあった7市町のエリアの70%で使えなくなりました(1月4日時点)。ほかの3社も、それぞれ影響のあった市町のエリアの38〜54%で使えない時期がありました。電波が戻っても、停電が続けば充電ができません。
全部を別の道具に置き換える必要はありません。スマホが止まると困るものを、1つずつ別の形で持つだけです。
- 家族と親の電話番号は、紙1枚に書いて財布に入れる
- 明かりは、ヘッドライトを1つ枕元に置く。スマホの電池を明かりに使わずに済む
- お金は、小銭を含めた少しの現金を持つ。内閣府の非常用持ち出し袋の例にも現金が入っている
どれも、引き出し1段に収まる量です。持ち物の数は2つか3つ増えますが、スマホ1台に全部を預けるより、止まったときの困りごとが小さくなります。
置き場所を増やさずに備える|3つの考え方

弱い所を埋めるために、防災用の棚を買い足す必要はありません。物を減らす暮らしと両立する考え方は3つです。
1つめは、種類を増やさず、数だけ増やすことです。普段飲んでいる水、普段食べているレトルトや缶詰を、いつもより少し多めに買って、食べた分を補充します。内閣府の広報誌は、この方法を「ローリングストック」として紹介しています。特別な物を用意しなくて済むので、続けやすい方法です。持ち物の種類は今のまま、数が少し増えるだけです。始め方はローリングストックのやり方の記事にまとめています。
1週間分の目安を、人数ごとに計算すると次のとおりです。水は政府の目安の1人1日3リットル、トイレは内閣府のガイドラインの1日5回で計算しています。
| 人数 | 飲み水(1週間) | 2リットルのボトル | 携帯トイレ(1週間) |
|---|---|---|---|
| 1人 | 21リットル | 11本 | 35回分 |
| 2人 | 42リットル | 21本 | 70回分 |
| 3人 | 63リットル | 32本 | 105回分 |
いきなり全部をそろえなくても大丈夫です。国の計画が家庭に任せているのは最初の3日間なので、まず3日分を目指し、次に1週間分へ広げます。水は重いので、東京消防庁のハンドブックが家具の収納で求めている「重い物は下に」と同じく、ベッドの下やクローゼットの床など、低い場所に箱のまま置きます。
2つめは、普段も使う物を防災の役に兼ねさせることです。カセットコンロは鍋の日にも使えます。ヘッドライトは夜の片付けやキャンプの道具になり、モバイルバッテリーは外出の日の荷物に入ります。防災のためだけの道具は、しまい込んで使い方を忘れがちです。普段使う物なら、いざという時にも手が動きます。
3つめは、物ではなく人に頼る備えです。内閣府の防災白書によると、阪神・淡路大震災で倒れた建物から救出されて生き延びた人の約8割は、家族や近所の人たちに助け出されました。消防・警察・自衛隊による救出は約2割です。隣の家の人と顔を合わせたら会釈をする。家族と「連絡がつかなければ、どこに集まるか」を1か所決める。どちらも、家の中の物は1つも増えません。
電話がつながりにくいときに使える災害用伝言ダイヤル171の練習方法は、171の使い方の記事にあります。持ち出し袋を最小にする方法は、防災リュックを最小にする記事で、残す12品と家に置いていい物に分けて書いています。
よくある疑問|物を増やしたくない人の4つの質問
備蓄をすると、ミニマリストではなくなりませんか
増えるのは種類ではなく、普段使う物の数です。1週間で使い切って買い足す量なら、家の中の物の顔ぶれは変わりません。防災のためだけに持つ物は、携帯トイレなど少しで済みます。
収納がほとんどありません。どこに置けばいいですか
ベッドの下、クローゼットや押し入れの床、玄関収納のいちばん下の段が向いています。どれも低い場所なので、高い所から落ちてくる心配が小さくて済みます。寝る場所の真上の棚や、出入口の前には置かないでください。倒れると逃げ道をふさぎます。
家具が少ないので、固定はしなくていいですか
背の高い家具がなければ、倒れてくる物はほとんどありません。ただ、冷蔵庫・洗濯機・テレビは残ります。この3つが寝る場所や通り道に倒れてこないかだけは、一度確かめてください。
スマホがあれば、ラジオはいりませんか
持ち物を1つも増やしたくないなら、まずはモバイルバッテリーで、スマホが使える時間を延ばすのが現実的です。そのうえで、能登半島地震のように広い範囲で電波が止まることがあると知っておくと、紙の連絡先メモの意味が分かります。ラジオを足すかどうかは、その次に考えれば十分です。
今日できること|水とトイレの「数」を1回数える
今日やることは1つです。家にある飲み水のリットル数と、携帯トイレの回数を数えてください。5分で終わります。
数えた数を、上の表の「1週間」の欄と比べます。足りない分は、次の買い物で水を1箱多めに買い、携帯トイレを1つ選ぶところから始めます。家族と暮らしている方は、数えた結果を家族のLINEに貼っておくと、次に誰が買い足すかで迷いません。
まとめ|減らした暮らしに、1週間分だけ足す
物が少ない家は、倒れてくる物、逃げ道をふさぐ物、割れて散らばる物が少なく、揺れている最中と直後に強い家です。国や消防がすすめる「生活空間に家具類を置かない」を、すでに実行しています。弱いのは揺れのあとの1週間で、水とトイレが家にないこと、買いに行けない期間があること、スマホ1台に頼りすぎていることの3つです。
埋め方は、種類を増やさず数だけ増やす、普段も使う物を選ぶ、人に頼る備えをする、の3つです。どれも、防災用の棚を買い足さずにできます。
次の行動は1つ。今日、家の飲み水のリットル数と携帯トイレの回数を数え、1週間分に足りない分を次の買い物のメモに書いてください。
この記事の出典
- 東京消防庁『家具類の転倒・落下・移動防止対策ハンドブック』(令和6年1月)/ 同「地震時の危険」
- 内閣府 防災情報のページ「特集3 地震に備える」(広報ぼうさい No.83)
- 総務省消防庁 刊行物データベース「家具が倒れると逃げ道まで塞がれて恐いね」
- 首相官邸「災害に対するご家庭での備え」(出典: 政府広報オンライン)
- 内閣府(防災担当)『避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン』(平成28年4月)
- 中央防災会議幹事会『南海トラフ地震における具体的な応急対策活動に関する計画』(令和7年6月30日)
- 国土交通省『令和6年能登半島地震を踏まえた上下水道の強靱化について』/ 同『令和6年能登半島地震からの復旧・復興状況と今後の見通し(令和7年出水期前時点)』(令和7年6月5日)
- 総務省『令和6年能登半島地震における通信分野の対応』(令和6年7月24日)
- 内閣府『平成26年版 防災白書』特集 第2章
※この記事は2026年10月1日時点の公式資料をもとに書いています。

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