非常用トイレが無い場所で用を足す|袋と紙と密封で、どこでも作れる

停電した家のトイレで便器に大きなゴミ袋をかぶせる安心こちゃん

地震のあと、家のトイレは流せない。携帯トイレは買っていない。避難所にはまだ仮設トイレが無い。車の中、職場、出先で、行きたくなった。この記事は、その状態で「そこにある物だけ」でどう用を足し、どう処理し、体を守るかを、内閣府の避難所トイレガイドライン、徳島県の実践マニュアル、熊本地震と能登半島地震の実測データにそって書いたものです。

結論を先に言います。袋と、水を吸う紙と、密封。この3つが手元にあれば、トイレはどこでも作れます。流してはいけないのは水洗便器だけです。熊本地震では、発災から6時間以内に73%の人がトイレに行きたくなり、11%が屋外に穴を掘って済ませました。携帯トイレを使えた人は2%です。備えていない状態のほうが、普通なのです。

私は防災士として、内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」(2024年12月改定)、徳島県「避難所快適トイレ・実践マニュアル」、日本トイレ研究所と大正大学の熊本地震調査、環境省の資料をもとにこの記事を書きました。携帯トイレを持っている方は、携帯トイレの使い方の記事のほうが早いです。この記事は「何も無い」人のために書いています。

全体地図|どこにいても、やることは同じ3つ

いる場所 使える物 やること
家(断水・停電) 便器、ゴミ袋2枚、新聞紙 便器に袋をかけて用を足す。流さない
便器が無い場所 段ボール箱かバケツか椅子、袋、紙 便座を作る。袋をかける。紙を入れる
車の中 袋、紙、目隠し 車の外に場所を作る。車内は最後の手
職場・出先 建物のトイレ、袋、備蓄 便器に袋。汚物の置き場を先に決める
避難所の前・屋外 袋、紙、シート、人 穴を掘らず袋に出す。人とシートで囲う

どの行も「袋に出して、紙で吸わせて、縛る」に行き着きます。場所によって違うのは、便座を何で作るかと、目隠しをどうするかだけです。順番に見ていきます。

先に「流さない」。水があっても、便器は使えない

断水していても、風呂の残り湯やバケツの水で流せば使えそうに思えます。内閣府のガイドラインは、それを禁じています。水道が使える場合でも、水が確保できる場合でも、発災直後は下水処理場などの被害状況が確認されるまで水洗トイレの使用を禁止し、災害用トイレを使うこと。理由は、排水管が壊れていると汚水が逆流したり、破損した所から噴き出したりするからです。集合住宅では、下の階に流れ込みます。

熊本地震では、53%の人が水を汲んで流し、13%の人がトイレを詰まらせて使えなくしました。日本トイレ研究所は、住民が自分で排水管の無事を点検する方法はまだ確立していないと書いています。「流していい」と自分で判断する手段が無いのです。市町村か管理会社の「使ってよい」が出るまで、便器は「袋をかける台」として使います。詳しい理由は残り湯をトイレに流すなの記事にあります。

我慢しない。我慢は、水を飲まないことにつながる

トイレが無いと、人は水を飲むのをやめます。新潟県中越地震では、トイレが不安で水を飲むのを控えた人が小千谷市で33.3%いました。内閣府は、我慢が水分と食事を控えることにつながり、脱水やエコノミークラス症候群を引き起こすと書いています。中越地震の死者60人の半数近くが関連死で、トイレの我慢も一因とされています。

だから、この記事の目的は「きれいなトイレを作る」ことではありません。我慢せずに出せる場所を、30分以内に1つ作ることです。国が備蓄の計算に使う数字は、1人1日5回、1回200〜300mlです。1日5回、出す場所が要ります。

家にいる場合|便器に袋を2枚。紙を入れる

大阪府高石市が公開している手順が、いちばん材料が少ないです。要るのは、45Lのゴミ袋2枚(無ければ30Lでも可)と、新聞紙数枚。新聞紙が無ければ雑誌などの紙類、猫砂、おむつでも代用できると市が書いています。

手順は5つです。便座を上げ、便器に1枚目の袋を広げてかぶせる(便器を汚さないため)。便座を下ろし、2枚目の袋をすっぽりかぶせる(ここに用を足す)。新聞紙をちぎって適度に入れる(水分を吸い、中身を見えにくくする)。用を足したら、2枚目の袋だけ外す。新しい袋をかぶせて新聞紙を入れれば、また使えます。

便器にゴミ袋を2枚かけ、新聞紙を入れ、使うたびに上の袋だけ替えて縛る5つの手順の図

2つ、間違えやすい点があります。1つは、便器の中の水を抜かないこと。徳島県のマニュアルは、便器の水が下水管との間を遮って臭いが上がるのを防いでいるので、そのまま袋をかぶせると書いています。もう1つは、袋は1回ごとに替えること。内閣府も徳島県も高石市も「使うたびに便袋を外す」で一致していて、1つの袋を何回も使うことを認めた公的な記述はありません。1枚目の袋は汚れないので替えなくて構いません。

使った紙も袋に入れます。トイレットペーパーを便器に落とさないでください。

便器が無い場所|段ボール、バケツ、椅子で便座を作る

段ボール箱に袋をかけ、新聞紙をちぎって入れて簡易トイレを作る安心こちゃん

内閣府のガイドラインは、トイレが無い、洋式便器が無い場合に、段ボール・新聞紙・テープで便器を作れるとしています。和式しかない時は、便器の上に板や段ボールを置いて封鎖し、その上に置いて使います。阪神・淡路大震災では、椅子の座面をくり抜いて便座にした事例が、ガイドラインに写真つきで載っています。

作り方の細かい寸法や補強の仕方を示した公的な図は、今回確認できませんでした。ここから先は、国が挙げた材料の範囲で、私が組み立て方を書きます。段ボール箱は、座っても潰れない強さになるまで、底と側面を折り込んでテープで留めます。上の面に、座れる大きさの穴を開けます。箱の中に袋を入れ、袋の口を箱の縁に折り返してテープで留めます。新聞紙をちぎって入れます。バケツなら、袋をかぶせて縁に折り返すだけです。椅子は座面をくり抜き、下にバケツか箱を置きます。座って体重をかけて、崩れないことを確かめてから使います。

吸水材は、新聞紙、雑誌、猫砂、紙おむつ、と公的に挙がっている物の中で、手元にある物を使います。おむつは水分を固めるので、袋の底に開いて敷くと扱いやすい。熊本では、ポータブルトイレに紙おむつを敷き、その都度袋に入れて捨てたという人の記録が残っています。

屋外|穴を掘らない。袋に出して、人とシートで囲う

駐車場の隅で、ブルーシートを持った人たちが囲いを作り、その中に段ボールの簡易トイレを置いている場面

熊本地震で11%の人が屋外に穴を掘りました。ただ、日本の環境省は「穴を掘って埋める」を勧めていません。国立公園でも山でも、環境省の答えは「携帯トイレを使い、持ち帰る」です。排泄物による水と土の汚染を防ぐためで、「水源から何メートル離す」「深さ何cm」といった数字は日本の公的資料にはありません。

だから屋外でも、やることは家と同じです。袋に出す。紙で吸わせる。縛る。便座は、段ボール箱でもバケツでも、無ければ袋を広げてしゃがむ形でも成り立ちます。熊本の被災者の記録に、こういう証言があります。役場の駐車場の片隅で、段ボールにビニール袋を敷いた中で用を足し、周りを何人かの人がシートで囲ってくれた。目隠しは、壁ではなく人とシートで作れます。

場所は、水路や井戸、川から離れた所、食べ物を扱う場所から離れた所、暗すぎない所を選びます。熊本の調査では44%が「照明がなく暗い」ことに困っています。夜は懐中電灯を1つ、その場所に置いておきます。

車の中|8割の人は、車の外に場所を作っていた

熊本地震では25%の人が最初に車の中に避難しました。その人たちがどこで用を足したかを見ると、仮設トイレ43%、自宅や庭43%、車内は6%です。車中避難の86%は、車の外まで移動して済ませていました。車内で完結させる方法を探すより、車のそばに「袋と紙と目隠し」の場所を1つ作るほうが現実的です。

車のドアを2枚開けて壁にし、その間にシートを張れば、車そのものが個室になります。使った袋は車内に置かず、トランクか車の外のふた付き容器へ。車で避難する時の体の守り方は車中泊避難の記事にまとめています。

職場・出先|便器に袋。汚物の置き場を先に決める

大きな地震のあと、東京都は3日間は職場にとどまる「一斉帰宅抑制」を求めています。建物に便器はあるので、やることは家と同じ「袋を2枚かぶせる」です。違うのは人数です。20人の職場なら1日100袋の汚物が出ます。東京都の帰宅困難者対策では、使用済みの汚物袋の保管場所を確保し、保管用の袋・消臭剤を用意しておくよう求めています。用を足す前に、汚物の置き場を先に決めるのが、職場での順番です。

コンビニやスーパーのトイレは、店が開いていれば使えることがあります。熊本では、車で被害の少ない地域まで行ってコンビニのトイレを使ったという記録があります。移動できるなら、それも1つの手です。

処理と保管|空気を抜いて縛り、ふた付きで、離して置く

徳島県のマニュアルの手順そのままです。袋から空気を抜いて、口をきつく縛る。ふたの付いたゴミバケツなどの密閉容器に入れる。使ったトイレットペーパーも同じ袋に入れる。

置き場所は、徳島県が4つの条件を挙げています。ゴミ収集車が入れる場所。調理場所など衛生に気をつける場所から離れた場所。居住空間からある程度離れ、臭いを避けられる場所。直射日光が当たりにくく、雨に濡れない屋根のある場所。家なら、玄関の外の軒下や物置が近い。避難所では、体育館裏の軒下や外階段の下が実際に使われました。通常のゴミとは分けます。

捨て方は、市町村の指示に従います。可燃ごみとして出せる自治体が多いですが、徳島県は「可燃ゴミとして出す場合は、し尿ゴミということが分かるようにする」と書いています。理由は、ゴミ収集車で袋が破裂して作業員がし尿を浴びた事例があるからです。回収が始まるまで何日も自分で保管することになるので、ふた付き容器は早めに用意します。

手と感染症|石けんと流水、無ければアルコール、ノロには効かない

排泄のあとの手が、避難生活の感染症の入口です。厚生労働省の順番はこうです。流水と石けんで洗う。流水が使えない時はアルコールを含んだ手指消毒薬を使い、指先から消毒する。バケツに汲み置きした水を使う時は、バケツの中に直接手を入れない。徳島県はさらに、タオルの共用をせずペーパータオルを使う、トイレの内と外で履物を分ける、と書いています。

1つ、知っておいてほしいことがあります。ノロウイルスにはアルコールが効きにくい。厚労省は、手指のノロウイルスを除く最も有効な方法は手洗いだとしています。避難所で下痢や嘔吐の人が出たら、アルコールで済ませず、少ない水でも石けんで洗う。飲料水の期限が切れたペットボトルは、捨てずに手洗い用に回します(徳島県のマニュアルにある使い道です)。

能登半島地震の調査では、屋外トイレに手指衛生の手段が無かった避難所が2か所ありました。手を清める物が無い時は、排泄物に触れた手で食べ物を触らない、という一線だけは守ります。水が少ない時の手の洗い方は、避難所の手洗いの記事に詳しく書いています。

女性・子ども・高齢者|目隠しと明かりと、順番

内閣府のガイドラインは、トイレを男女で分けること、待つ列にも目隠しを置くこと、夜間の照明を個室と経路に置くこと、施錠と防犯ブザー、高齢者には洋式と手すり、子どもと一緒に入れる広さ、を挙げています。何も無い場所でも、この中の3つはできます。目隠しを人とシートで作る。懐中電灯を置く。順番を決めて、1人にしない。

高齢の方は、しゃがむ形が難しい。椅子の座面をくり抜いた便座が、この時に効きます。子どもは、暗い場所とにおいを怖がって我慢します。大人が先に使って見せると、動けることがあります。

数字で見る|仮設トイレは、すぐには来ない

阪神・東日本・能登で仮設トイレが避難所に届くまでの日数の図

阪神・淡路大震災では、避難所に災害用トイレが置かれたのは早くて3日目、遅い所で11日目でした。東日本大震災では3日以内に届いたのが34%。能登半島地震では、調査対象の10か所のうち3日以内は10%で、半数は4〜7日、3割は8〜14日かかりました。熊本地震では、避難生活の初期にもっとも困ったことの2位がトイレ(62%)で、食事(50%)より上でした。そして41%の人は、行政からトイレについて何の情報も受け取っていません。

この数字は、「誰かが持って来てくれるまでの3日から1週間を、自分の袋と紙でしのぐ」が現実だと言っています。

平時の備え|袋と紙を、家と車に

この記事の備えは、防災グッズを買わなくても始められます。45Lのゴミ袋を1箱、家のトイレの棚に。新聞紙かペットシートを袋に入れて、車のトランクに。ふた付きのバケツを1つ。それで、この記事の全部ができます。

そのうえで、携帯トイレを1袋だけ足すと、凝固剤が水分を固めてくれるので、におい・漏れ・保管の負担が段違いに減ります。国の目安は1人1日5回×3日分。まずは1袋(20〜30回分)からで十分です。選び方は非常用トイレおすすめ10選の記事に、必要な数の数え方は携帯トイレの使い方の記事にあります。断水した最初の10分の動きは断水したら最初の10分の記事、避難所のトイレ問題の全体像は災害時のトイレ問題ガイドにまとめています。

まとめ|流さない・我慢しない・袋に出して縛る

水があっても便器は流さない。我慢せず、30分以内に出す場所を1つ作る。便器があれば袋を2枚かぶせて新聞紙を入れ、1回ごとに上の袋を替える。便器が無ければ段ボール箱・バケツ・椅子で便座を作る。屋外でも穴を掘らず袋に出し、人とシートで囲う。空気を抜いて縛り、ふた付きの容器に入れて、調理場所と寝る場所から離して置く。手は石けんと流水、無ければアルコール、ノロには手洗い。順番はこれだけです。

今日できることを1つだけ。45Lのゴミ袋を1箱、トイレの棚に置いてください。それだけで、この記事の半分が備えになります。

この記事の出典

  • 内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」(2016年4月作成・2024年12月改定)
  • 徳島県「避難所快適トイレ・実践マニュアル」(2022年6月・日本トイレ研究所協力)
  • 日本トイレ研究所・大正大学 岡山朋子「熊本地震 避難生活におけるトイレに関するアンケート調査」(2018年4月)
  • 日本トイレ研究所「能登半島地震 避難所トイレ調査」(2024年6月)、加藤篤「東日本大震災におけるトイレの実態」(内閣府検討会資料 2015年)
  • 高石市「災害時の簡易トイレの作り方」、東京都「帰宅困難者対策ハンドブック」、東京都防災ホームページ(携帯トイレの備蓄目安)
  • 環境省 国立公園の利用マナー(携帯トイレの使用と持ち帰り)
  • 厚生労働省「避難所内のトイレの衛生管理について」「ノロウイルスに関するQ&A」、東京都下水道局(災害時の下水道の使用制限)

※この記事は2026年9月6日時点の公的資料をもとに書いています。段ボール便座の組み立て方の細部は公的な図が無いため、国が挙げた材料の範囲で防災士が補っています。使用済みの袋の捨て方は、お住まいの市町村の指示を優先してください。

コメント