避難所で揉めるパターン5選|記録に残った実例と、収まった方法

体育館の避難所の掲示板の前で、貼られた紙を見上げて読む安心こちゃん

避難所で起きる揉め事は、性格の合わない人が集まったから起きるのではありません。この記事は、熊本地震・能登半島地震・東日本大震災・新潟県中越地震の公的な検証報告書と学術調査に記録された揉め事を5つのパターンに分け、「なぜ起きたか」と「どう収まったか」を出典つきで並べたものです。

結論を先に言います。5つの揉め事はどれも「決めていなかったから起きた」。配る順番、場所の区割り、消灯の時刻、ペットの部屋、当番の回し方。決まっていない所に人が集まると、誰が悪いわけでもなく揉めます。そして記録に残っている「収まった形」は、掲示文・班分け・専用室・通行証・目安箱と、どれも仕組みでした。

私は防災士として、内閣府の熊本地震と能登半島地震の避難所運営の記録、益城町の検証報告書、消防防災科学センターの熊本市ヒアリング、内閣府の避難所運営ガイドラインと取組指針、内閣府男女共同参画局のガイドライン、新潟県中越地震の被災者調査をもとにこの記事を書きました。数字はすべて資料の原文どおりで、母数も添えています。読み終わる頃には、避難所に着いた日に「掲示板の生活ルールを先に読む」理由が分かります。

全体地図|5つの揉め事と、収まった形

揉め事 決まっていなかったこと 記録に残る収まった形
①物資の配り方 足りない時に誰から配るか。外の人にも配るか 数人で1つを分ける。区長が代表で取りに行く。国が「在宅の人にも配る」と通知
②場所取り 区割りと、配慮が必要な人の場所 校区ごとの運営委員会で事前に決める。段ボールで男女・家族を区切る
③音と生活時間 消灯・通話・起床の時刻 消灯22時などの生活ルールを掲示。困ったら総務班へ
④ペット どこにいてよいか 専用の教室・専用避難所。事前の取り決めをマニュアルに
⑤当番の偏り 誰がどれだけ手伝うか 世帯ごとに班へ。交代制と免除の規定。目安箱
避難所の揉め事5つ(物資・場所取り・音・ペット・当番)と、決まっていなかったこと、収まった形の一覧図

上から順に、出典の固い順です。①は熊本市の記録が突出して具体的で、③は数字と実際の掲示文の両方が残っています。順番に見ていきます。

①物資の配り方|並んだ順に配った避難所は、後で配れなくなった

避難所で配給の列に並ぶ人たちと、箱の中の少ない物資を数えて困る運営の人

熊本地震のあと、消防防災科学センターが熊本市に聞き取りをした記録に、こう書かれています。物資が避難者の数より少ない時、マニュアルでは子どもやお年寄りに配ることになっていたが、実際は「数人で1つを分ける」対応をした。一方で「並んだ順に配布した避難所」もあり、そこでは後から配れなくなり、相当な指摘を受けた。同じ市の中で、避難所ごとに対応が割れています。配る順番を決めていない避難所で、揉め事は起きました。

益城町の検証報告書は、もう1段前の問題を書いています。「物資の配布について明確な配布基準が何も無かったため、避難所の中の避難者に限るのか、軒先避難者等にも配布していいのかが当初分からなかった」。自宅の庭やビニールハウスに避難した人に配るかどうかが、決まっていなかったのです。町はその後「車中泊避難者や軒先避難者等にも配布する」と方針を決めました。

収まった形の1つが、区長が地区を代表して物資を取りに行く仕組みです。益城町は4月26日に全区長へ通行証を配り、物資倉庫からの調達を頼みました。区長のヒアリングには「有効だった。ただし、その分区長の負担が増加した」と、効き目と副作用が同じ行に書かれています。

この問題は能登半島地震でも繰り返されました。内閣府の記録には「避難所に物資を取りに来ても配布してもらえないなどの事例があった」ため、2024年1月8日付で「在宅避難者が受け取りに来た際は必要な物資を配布するよう」自治体へ事務連絡を出した、とあります。現行の国の取組指針は、避難所を「避難所避難者のためだけの施設とならないようにすること」と明記しています。避難所は、そこにいる人だけの場所ではありません。

「物があるのに受け取れない」型が、もう1つ。内閣府男女共同参画局のガイドラインは、東日本大震災で女性用下着や生理用品が届いていても配布担当が男性だったため女性がもらいに行きづらかった、と記録し、対処として「女性の担当者からの配布」「女性トイレや女性専用スペースに常備」を挙げています。同じ資料には、男性側にも「リップクリームが欲しかった」「尿もれパッドが欲しかったが言い出せなかった」という声が残っています。配る側の性別と置き場所を決めておくだけで、この揉め事は起きません。

②場所取り|「いったん始まると再配置は大変に難しい」と国が書いている

場所の揉め事について、内閣府の避難所運営ガイドラインは正直です。「避難所ではいったん被災者が流入し、『場所取り』が始まってしまうと、その人たちを再び再配置することは大変に難しいのが現実です」。配慮が必要な人のスペースも、事前に決めておかないと後から確保するのは困難だ、と続きます。場所の揉め事は、開設後の数十分で決まる構造の問題です。

熊本市と上天草市では、避難所の開設後に地区ごとの区割りをせず、要配慮者に気を遣うことなく避難者が自分のスペースを確保し、混乱をきたした、と記録されています。熊本市はこの教訓から、校区ごとに避難所運営委員会を作り、開設前にルールを決めておく方向へ切り替えました。

能登半島地震の自主点検レポートは、順番まで示しました。間仕切りや簡易ベッドが全員分そろわない時は、まず高齢者と障害のある方への簡易ベッド、次に女性のプライバシーの確保を優先する。国は段ボールベッド約7,000個、パーティション約3,200個をプッシュ型で送りましたが、発災当初は避難所が過密で置くスペースがなく、利用を断る被災者もいたと同じ資料にあります。物が届いても、置く順番が決まっていなければ使えません。

隣り合わせが原因の揉め事も記録があります。熊本地震では、単身の男女が隣同士の区画になったことによる苦情が出た避難所があり、多くの避難所が男性・女性・家族ごとに段ボールで区切ることで対応しました。区切りは物の問題に見えて、実は「誰の隣に誰を置くか」という決め事の問題です。

③音と生活時間|不満の数は「広さ」、ストレスの元は「音」

新潟県中越地震で避難所生活を送った山古志村の住民95名への調査(福島大学の永幡幸司氏ら、2005年)があります。避難所の生活環境で不満を訴えた人の割合は、生活空間の広さが66.3%でいちばん多く、音は46.0%でした。ところが、避難所生活のストレスとの結びつきを見ると、広さや設備より「音」と「プライバシー」のほうが大きかった、と結論づけています。数が多い不満と、心をすり減らす不満は別物です。

音の中身も記録されています。多い順に、子どもが騒ぐ・泣く(10人)、他の避難者の話し声(6人)、全体的にうるさい(4人)、足音(4人)、いびき(3人)。同じ調査に、子どもを持つ母親の「自分たちが発信源になってしまい、気疲れがあった」という回答と、周りの人の「親も気にしているのだと思って我慢した」という回答が並んでいます。出す側も聞く側も、我慢していました。

収まった形は、時刻をルールにして貼ることです。内閣府の報告書に、熊本地震で実際に使われた生活ルールの一例が採録されています。照明の点灯6時、ラジオ体操6時30分、消灯22時。食事の配布は世帯単位。他の世帯のスペースに無断で立ち入らない、覗かない。携帯電話は消灯後マナーモードにし、居住空間での通話は控える。貴重品は自己管理。お酒の持ち込み禁止、喫煙は屋外の指定場所。そして最後の行が「避難所内でトラブルが生じた場合は、代表者または総務班に相談してください」です。揉めた時の相談先まで、先に決めて貼ってあります。

熊本地震で実際に使われた避難所の生活ルールの抜粋。消灯22時、貴重品は自己管理、トラブルは代表者か総務班に相談

消灯22時は、千代田区の避難所運営マニュアルのタイムテーブル例とも一致します。同じマニュアルは、洗濯物干し場の順番は公平に決める、来客は生活スペースに入れず面会場所で対応する、貴重品は自己責任と周知する、と揉めそうな所を先に文章にしてあるのが特徴です。自治体のマニュアルは、揉め事の予告表として読めます。

自分の側でできることも、記録にあります。熊本地震の調査で、音が気になる障害のある方から「耳栓やノイズキャンセリングイヤホン、アイマスクを支援物資に」という要望があり、「障害の有無にかかわらず配ってくれれば、周囲の目を気にせず使える」と続いています。持ち出し袋に耳栓を1組入れておくのは、今日できる備えの1つです。

④ペット|「入れてほしくない」35.5%と、専用室で肩身が狭かった飼い主

熊本地震で避難した人へのインターネットアンケート(内閣府、有効回答377人)では、避難所へのペット同伴について「避難所内には入れてほしくない」が35.5%、「問題には感じるが仕方のないことだと思う」が45.9%でした。入れてほしくないと答えた134人の理由は、臭いが79.9%、鳴き声や音が77.6%、ペットアレルギーの心配が56.7%です。好き嫌いより先に、臭い・音・アレルギーという体の問題が並んでいます。

起きたことも記録されています。ペット同伴のスペースを貼り出していたが徹底されず、一般のスペースに子犬を連れて就寝している避難所があり、アレルギーのある方とトラブルになった事例があった。一方で、専用の教室に分けた避難所では、その部屋の環境が一般の避難者より良かったために飼い主が肩身の狭い思いをし、周りに気を遣っていた、と同じ報告書にあります。飼い主も、飼っていない人も、どちらも気まずかった。これが「性格ではなく仕組み」の証拠です。

益城町では、発災当初ペットが避難所内にいて不衛生な状況になり、時間がたつとペット連れの家族が周りを意識して自宅や車へ移っていきました。5月15日に町総合体育館の敷地内にペット専用避難所(24時間エアコン、60匹収容)ができましたが、地震は4月16日です。約1か月、決め事がない状態が続きました。町の検証報告書は課題を「ペットの取り扱いについて明確な取り決めがなかったので判断できなかった」と書き、改善策を「マニュアルに明記する。ペット専門のNPO等と事前に協定を結ぶ」としています。飼い主の側で先に用意しておく物(ケージ・フード・トイレシート)はペット用防災グッズ10選にまとめています。

⑤当番の偏り|国の指針が13年間、同じ一文を残している

手伝いをめぐる不満は、放っておくと必ず偏る、という前提で国の指針は書かれています。「炊事や清掃などの役割分担が、一部の住民に負担が偏らないよう配慮すること」。この一文は、東日本大震災を受けた2013年の検討会報告書に初めて入り、2024年12月改定の現行指針にもそのまま残っています。13年たっても消えていない、ということは、今も起きているということです。

現場の記録では、益城町の区長ヒアリングに「避難所内でのトラブルが多く、区長が間に入って仲裁することが多々あった」とあります。仲裁役まで区長に集まっていました。熊本地震の別の記録には、学校の先生が張り切って常に校内を回り、「燃え尽きるのではないかと思うくらい心配した」という一文があります。

収まった形は3つ記録されています。1つ目は交代制で、学校の避難所では先生たちが学生や卒業生のボランティアに支えられて3交代の24時間シフトを組み、避難者の中からリーダーを決めて班に分けました。2つ目は免除の規定で、熊本地震の生活ルールには「世帯ごとにいずれかの班に属してください。ただし、介護や支援が必要な方がいる世帯は、相談の上、免除してもかまいません」「班は定期的に交代する」と書かれています。3つ目は目安箱で、小さな子どものいる家庭や女性は意見を言いづらいため、「目安箱などを設置して声の大きな人の支援に傾くことが無いよう配慮する必要があった」と記録されています。

補足|「中の人」と「外の人」を見分けられなかった

5つに入れませんでしたが、記録の中で数字が大きい揉め事がもう1つあります。熊本地震の避難者アンケート(有効回答377人)で、防犯面で気になったことの1位は「避難者と外部の人の区別がつかなかった」で47.7%でした。車中泊の人が食事とトイレだけ避難所を使い、名簿が機能しなくなり、夜間もトイレのために玄関の鍵をかけられなかった、という記録もあります。

収まった形は、名簿ができる前に避難者と関係者にリボンをつけてもらい、外の人と見分けられるようにした避難所です。個人で来るボランティアには氏名・資格・所属団体を書いてもらいました。車中泊の人については、内閣府の記録は「参加しない人」と責めるのではなく、「車中泊者も含めた住民主体の避難所運営についての体制を確立する必要がある」と結んでいます。

揉め事の本当の被害|人が避難所を出て行くこと

益城町の検証報告書に、この記事の結論にあたる一文があります。「子どもやペットがいる世帯では、避難所での他者との共同生活によるトラブルを未然に防ぐため車中避難・青空避難を選択した事例も確認された」。揉めるのが分かっているから、来なかった人がいます。内閣府の調査の自由回答にも「乳児が夜中に泣いてしまうため、夜は車中泊をした」「ペットがいるため避難所という選択肢を持てなかった」という声が残っています。

揉め事の本当の被害は、その場の言い合いではありません。支援が届く場所から、人が離れることです。車中泊はプライバシーが守れる一方で、エコノミークラス症候群の危険があると熊本市のガイドラインも書いています。5つのパターンを「決めておく」ことは、避難所に人を留めるための仕組みです。

自分の側でできる3つ|掲示を読む・相談先を知る・耳栓を入れる

避難所の掲示板の前で生活ルールの紙を読み、耳栓を手に持つ安心こちゃん

運営の仕組みは自治体が作るものですが、避難者の側で今日できることが3つあります。1つ目は、避難所に着いたら掲示板の生活ルールを先に読むことです。消灯時刻・通話の決まり・貴重品の扱い・相談先が書いてあります。読んでいる人と読んでいない人の間で、揉め事は起きます。2つ目は、相談先の名前を知ることです。熊本の生活ルールでは「代表者または総務班」でした。隣の人に言っても解決しない用件を、隣の人に言わずに済みます。困りごとの頼み方は避難所での会話術の記事にセリフの形で書いています。

3つ目は、耳栓とアイマスクを持ち出し袋に入れることです。音の揉め事は、出す側も聞く側も我慢していました。自分の耳を先に守れば、我慢の量が減ります。眠るための備え全体は避難所で快適に眠る方法の記事に、場面ごとのふるまいは避難所の人間関係の場面別まとめに分けています。

まとめ|決めていなかったから起きた。決めてあれば収まった

物資は、並んだ順に配った避難所が後で配れなくなり、数人で1つを分けた避難所と区長の代表制が収めました。場所は、いったん始まると直せないと国が認めていて、事前の区割りと段ボールの区切りで収まっています。音は、不満の数より心をすり減らす問題で、効いたのは消灯22時の掲示と相談先の明記でした。ペットは、8割が何らかの引っかかりを感じる問題で、専用室と事前の取り決めが答えです。当番は、13年間同じ一文が指針に残るほど偏り、交代制・免除規定・目安箱で回りました。どれも、決めていなかったから起きています。

今日できることを1つだけ。「お住まいの市町村名 避難所運営マニュアル」で検索して、生活ルールのページを1回読んでください。消灯時刻と相談先が、そこに書いてあります。避難所に着いた日に読む文章を、今日、家で先に読んでおくだけです。

この記事の出典

  • 内閣府(防災担当)『平成28年度 熊本地震における避難所運営等の事例(途中経過)』(2016年10月)、『平成28年度 避難所における被災者支援に関する事例等報告書』(2017年4月。避難者アンケートは2017年1月のインターネット調査・有効回答377人)
  • 小松幸夫(消防防災科学センター)「熊本地震における避難所開設・運営に関する実態」(熊本市への聞き取り、2016年11月)
  • 益城町『平成28年熊本地震 益城町による対応の検証報告書』(2017年11月)、熊本市『車中泊避難者支援ガイドライン』
  • 内閣府『避難所運営ガイドライン』(2022年4月改定)、『避難生活における良好な生活環境の確保に向けた取組指針』(2024年12月改定)、『避難所における良好な生活環境の確保に関する検討会 報告書』(2013年3月)
  • 内閣府『令和6年能登半島地震における避難所運営の状況』(2024年4月)、『令和6年能登半島地震に係る災害応急対応の自主点検レポート』(2024年6月)
  • 内閣府男女共同参画局『災害対応力を強化する女性の視点』(2020年5月)
  • 永幡幸司・金子信也・福島哲仁「避難所における生活環境の問題とストレスとの関係について」(新潟県中越地震・山古志村民95名の調査、2005年8月)
  • 千代田区『避難所運営マニュアル』(2019年2月)

※この記事は2026年9月7日時点の公的資料をもとに書いています。アンケートの数字は、それぞれの調査の対象と回答数の範囲でのものです。生活ルールは避難所ごとに違うので、着いた施設の掲示と運営者の案内を優先してください。

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