避難所の夜、いびきや話し声が気になっても、「静かにしてください」とはなかなか言えません。
言えないのは、気が弱いからではありません。避難所は数日から数週間、同じ人と顔を合わせ続ける場所だからです。一度言えば、その関係はそのまま残ります。しかも音を出している側は、たいてい眠っていて自覚がありません。
だから順番を変えます。言う前に、自分の側で動かせることを3つやります。寝る場所を変える、耳栓と「起こしてね」の約束をセットにする、眠る時間をずらす。この3つで収まらなかったときに、はじめて相談します。相談する相手も、本人ではありません。
消灯後に起きること
避難所で眠れない原因は、だいたい4つに分かれます。音、光、床の硬さ、そして不安です。
このうち音だけが「他の人が原因」です。光は照明、床は建物、不安は自分の心の話なので、道具や工夫で片づきます。音は相手がいるので、同じようにはいきません。だからいちばんこじれます。
道具でどこまで解決できるかは、避難所で快適に眠る方法|底冷え・照明・物音・視線の備えにまとめています。この記事は、その先の「人がからむ部分」の話です。
① 寝る場所を変える
いちばん効いて、いちばんお金がかからない方法です。
眠ることを優先するなら、端の壁際を選びます。片側が壁になるだけで、人の往来が半分になります。避けたいのは出入口のそばとトイレのそばです。どちらも夜通し人が通ります。窓際は換気がいい代わりに、朝いちばんに明るくなります。
避難所は早く着いた人から場所が決まります。着いたら荷物を置く前に、一度だけ建物の中を見てください。1分で終わります。
そして、あとからでも場所は替えられます。「もう決まってしまったから」とあきらめる方が多いのですが、翌日に運営の方へ相談すれば、空いた場所に移れることがあります。人に「静かにして」と言うより、自分が動くほうがずっと角が立ちません。
② 耳栓と「起こしてね」をセットにする
耳栓は、避難所の夜に対していちばん費用対効果が高い道具です。数百円で、いびきも話し声も遠ざかります。
ただしそのまま使ってはいけません。遮音性の高い耳栓は、いびきと一緒に非常放送や避難の呼びかけも遠ざけます。夜中に建物を出なければならない事態は、実際に起こります。
だから次の3つのどれかを必ずセットにしてください。
- 家族と「何かあったら起こしてね」と約束しておく
- ひとりのときは片耳だけにする
- 遮音の強さを調整できるタイプを選ぶ
いちばん簡単なのは1つめです。約束はタダで、いますぐできます。
③ 眠る時間を30分ずらす
消灯の直後は、いちばん人が動きます。トイレに立つ人、荷物を整える人、まだ話している人。ここで眠ろうとすると、いちばん音の多い時間帯に目を閉じることになります。
消灯から30分は、眠ろうとしないでください。目を閉じて横になっているだけで十分です。「眠らなきゃ」と思うほど眠れなくなるので、そこは手放します。動きが落ち着いてから眠りに入るほうが、結果として早く眠れます。
朝型の方は逆に、早く寝て早く起きるほうが静かな時間を長く取れます。自分がどちらか、平時のうちに知っておくと迷いません。
それでも言うときの言い方
3つやっても眠れない夜が続くなら、そこではじめて相談します。ただし、本人には言いません。
伝える相手は、避難所の運営をしている方(避難所運営委員会・自治会・行政の担当者)です。理由は2つあります。当人どうしのやりとりにすると関係が残ること。そしてもう1つ、同じことで困っている人がほかにもいるからです。運営に上がった話は、生活ルールとして全体で決め直せます。
内閣府の避難所運営ガイドラインでも、家では当たり前にしていることを、避難所では話し合ってルールにしておくことがすすめられています。消灯の時刻も、音の出る場所の区切り方も、決めていいことです。
言い方は、相手を変える依頼ではなく、自分が動く依頼にします。
- ×「隣の方のいびきがひどいので、注意してもらえませんか」
- ○「夜あまり眠れていないので、場所を替えてもらえませんか」
同じ相談でも、後者なら誰も責められません。子どもや高齢の家族がいるなら、「子どもが眠れなくて」と主語をその子にしても構いません。運営の方は優先順位をつけて動く必要があるので、事情は具体的に伝えるほうが通ります。
自分が「音を出す側」だったら
いびきは体質と疲れで出ます。責める話ではありません。ただ、先に一言あるかどうかで、周りの受け取り方はまったく変わります。
寝る前に隣の方へ「いびきがうるさかったら、起こしてくださいね」と伝えておく。それだけで、相手は我慢する側から「言っていい側」になります。言われる前に言っておくのが、いちばん角が立ちません。
そのうえで、横向きで寝ると気道が広がっていびきが出にくくなります。場所も、できれば端を選びます。
子どもがいる家庭は、順番が変わります
小さいお子さんがいると、悩みが反対になります。眠れないことより、泣き声で周りに迷惑をかけていないかが気になって眠れない。夜中じゅう謝り続けて、親のほうが先に消耗します。
この場合も、先に一言が効きます。場所が決まった時点で、隣の方に「夜に泣くかもしれません、すみません」と伝えておく。あとから謝るより、先に伝えておくほうが、こちらの気持ちがずっと軽くなります。
そして場所は入口寄りを選びます。眠りを優先するなら端の壁際ですが、子ども連れは夜中に外へ出る回数が多いので、遠いと毎回まわりをまたぐことになります。何を優先するかで正解が変わります。
避難所によっては、乳幼児のいる家庭を別室にまとめている場合があります。案内が出ていなくても、聞けば教えてもらえることがあるので、着いた日に一度確認してみてください。避難所での子どものケア完全ガイドに、子ども側の過ごし方をまとめています。
眠れない日が続いたら
眠れない夜が何日か続くと、判断力と気力が先に落ちます。物忘れが増える、いつもなら流せることでいらいらする、食事の味がしない。こうしたサインが出たら、気持ちの問題ではなく、体が足りていない状態だと考えてください。
昼に20分だけ横になるのでも回復します。夜にまとめて眠れなくても構いません。避難所には保健師さんが巡回していることが多いので、「眠れていない」と伝えるだけでも相談になります。我慢して耐える期間ではありません。
まとめ
避難所の夜は、言う前に3つ、言うときは運営に、自分を主語で。これだけ覚えておけば、その場で考えなくて済みます。
- 寝る場所を変える(端の壁際。あとからでも相談できる)
- 耳栓と「起こしてね」の約束をセットにする
- 消灯から30分は眠ろうとしない
今日できることは1つだけです。耳栓を家族の人数分そろえて、防災リュックに入れてください。そして入れた袋に、油性ペンで「起こしてね」と書いておきます。夜中に耳栓をつけるとき、その4文字が約束を思い出させてくれます。
眠るための道具は避難所で快適に眠る方法に、避難所の人づきあい全般は避難所の人間関係にまとめています。避難所生活そのものの流れは避難所での生活サバイバル術完全ガイドをどうぞ。
