熊本駅の改札で、熊本城の城彩苑で、下通のアーケードの下で、大きく揺れた。旅行や出張で来た人が最初に迷うのは「どこへ逃げるか」です。この記事は、熊本市の3つの場所について、揺れた直後の1時間に何をするかを、気象庁・内閣府・地震調査研究推進本部・熊本県・熊本市の公式の資料から書いたものです。旅先で地震にあった時の共通の動き方は旅行先で地震にあったらの記事にまとめています。
結論を先に言います。熊本市の中心部は、津波のために走る場所ではありません。3地点とも、いちばん近い指定緊急避難場所が直線400m以内にあります。熊本駅は駅前広場そのものが避難場所で、直線およそ65m。熊本城は城彩苑から城内の二の丸公園まで約379m。下通は花畑広場が約376m。代わりにこの街で考えることが2つあります。落ちてくる物と、そのあとに来るかもしれない次の地震です。
私は防災士として、気象庁の報道発表と技術報告 第135号、地震調査研究推進本部の長期評価、内閣府の被害状況資料と中央防災会議の報告書、熊本県『第1章 熊本地震の概要』と津波浸水想定の解説、熊本市地域防災計画 令和8年度版、熊本市災害対策本部会議資料、国土地理院の指定緊急避難場所データと標高を読んでこの記事を書きました。
3地点の結論|動くか、待つか
| 場所 | 標高 | いちばん近い避難先(直線) | 揺れが収まったら |
|---|---|---|---|
| 熊本駅 | 10.5m | 約65m 熊本駅白川口駅前広場(10.2m) | 駅の建物から離れて、駅前広場へ。その広場が指定の避難場所 |
| 熊本城(城彩苑) | 16.3m | 約379m 二の丸公園(37.8m) | 石垣と建物から離れて、係員の案内に従う。第一高校・花畑広場もほぼ同じ距離 |
| 下通アーケード | 11.5m | 約376m 花畑広場(13.4m) | アーケードの屋根の下から出る。行き先は花畑広場 |

標高は国土地理院の数値(2026年9月25日取得)、避難場所は国土地理院の指定緊急避難場所データ(熊本市分 2025年1月23日更新)です。距離はすべて直線距離で書きます。このデータの更新日は、2026年7月28日の地震より1年半前です。7月の地震のあとに施設が使えるかどうかは反映されていません。行く前に、熊本市のページで最新をご確認ください。
熊本で想定されている地震|動いた区間と、動いていない区間
熊本市の足元には、布田川断層帯と日奈久断層帯という2本の活断層帯が走っています。地震調査委員会の評価では、2016年4月14日のM6.5は日奈久断層帯の高野-白旗区間、同16日のM7.3は布田川断層帯の布田川区間、そして2026年7月28日のM7.1は日奈久区間の北東部と高野-白旗区間の一部が動いたものとされています。
まだ動いていない区間もあります。日奈久断層帯の八代海区間で、単独で活動するとM7.3程度、30年以内の発生確率はほぼ0%〜16%(算定基準日 2026年1月1日)。評価の原文には「その最大値をとると、八代海区間は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層帯の中では高いグループに属することになる」とあります。なお、この確率は7月の地震より前に算定された値です。
2026年7月28日の地震では、熊本市は南区が震度6強、中央区・東区・西区・北区が震度5強でした。内閣府の資料(2026年9月9日12時現在)では、死者38人・負傷者371人・住家被害44,252棟。死者の内訳は八代市20人、宇城市3人、嘉島町7人、甲佐町1人、氷川町5人(ほかに2人は市町村別の内訳に載っていません)で、熊本市は入っていません。熊本市の被害想定そのものは平成25年度の市の調査がもとで、2016年も2026年も反映されていません。その想定では、南海トラフのときの熊本市は震度5弱〜5強(一部6弱)です。
熊本の分かりにくさ|「津波」の欄は、逃げ先という意味ではありません
| 欄 | 熊本市での付き方 | 読み方 |
|---|---|---|
| 津波 | 市の一覧の凡例は「津波ハザードマップにおいて津波警戒ライン内ではないもの」に○ | 「津波のときにそこへ逃げる」ではなく「警戒ラインの外にある」という意味 |
| 火山現象 | 国土地理院に公開されている分のすべてに登録されている | 市自身の避難場所一覧に火山の区分はなく、阿蘇山の火山防災協議会にも熊本市は入っていない |
| 洪水 | 下通は想定最大規模で0.5m以上5.0m未満(アーケードの中ほどは3.0m以上) | 白川の氾濫の話。地震の話とは別 |
標高37.8mの二の丸公園に「津波」が付いているのは、そのためだと読めます。熊本市の避難場所を「津波の避難先」として覚えないでください。県の想定でも、熊本市の最大津波水位はT.P.+2.9m・津波波高0.46m(南海トラフ)で、影響開始は209〜213分後。ほかの断層の地震では波高0.08〜0.17mと、津波注意報の基準の0.2mに届きません。
それでも「津波は来ない」とは書きません。2026年7月28日、有明・八代海に津波注意報が実際に出ています(16時29分発表、18時10分解除)。県は到達時間の資料にこう書いています。「※津波の影響開始時間は避難開始までの猶予時間ではありません!」。数字ではなく、気象庁から出た情報に従ってください。
熊本駅|駅前広場そのものが、指定の避難場所

熊本駅の標高は10.5mです。いちばん近い指定緊急避難場所は「熊本駅白川口駅前広場」で、駅から直線およそ65m。近くには、くまもと森都心プラザ(約228m・標高9.9m)と春日小学校(約281m・8.5m)もあります。この街シリーズで調べてきたなかで、駅からいちばん近い部類の登録です。
だから熊本駅での動き方は短くなります。揺れている間は頭を守り、収まったら駅の建物とガラスから離れて、白川口の駅前広場へ。そこが行き先です。熊本駅周辺地区は、市の計画で帰宅困難者一時滞在施設(受入可能人数 約1,800人)と定められています。もう1つ、2026年の地震では県内でエレベーターの閉じ込めが29件ありました。駅ビルや商業施設で揺れたら、階段を使ってください。
熊本城|まず石垣から離れる。行き先は3か所がほぼ同じ距離
城彩苑のあたりの標高は16.3mです。いちばん近い指定緊急避難場所は、城内の二の丸公園(約379m・標高37.8m)。ただし、城の外の第一高校(約438m・14.8m)と花畑広場(約446m・13.4m)も、ほぼ同じ距離にあります。地図で見ると、城彩苑と二の丸公園のあいだには西出丸の石垣とお堀があり、二の丸公園へは20mほど上ることになります。近い順で選ぶより、石垣とお堀のそばを通らないことを先に考えてください。
熊本城では、離れる相手がはっきりしています。石垣とお堀のふちです。2026年7月28日の地震では、熊本城で石垣等40か所・建造物11か所・その他8か所の被害が報告されました(熊本市の本部会議資料・2026年8月13日11時時点)。同じ資料に「来場者、スタッフ、工事関係者全員無事」とあり、8月13日に開園しています。2016年の被害の復旧工事は今も続いています。閉まっている施設や交通規制は日々変わるので、行く前に公式サイトで確認してください。城内でのふるまいは、まず係員の案内が先です。
下通アーケード|屋根の下から出て、花畑広場へ
下通の標高は11.5mです。いちばん近い指定緊急避難場所は花畑広場(約376m・標高13.4m)、次が銀座橋一帯白川川岸(約453m・13.9m)。ここでも走る理由は津波ではありません。この場所で向き合うのは、頭の上にある物です。屋根、看板、ガラス。熊本市の計画にも「地震時に、建築物の窓ガラスや看板などの落下による危険を防止するため」という一文があります。
行き先の花畑広場は、市が帰宅困難者の受入拠点を定めるエリア防災計画の対象として名前を挙げている場所でもあります。買い物や食事の途中で揺れたら、アーケードの下から出て、この広場へ。直線で約376mです。通町筋に近い北側で揺れたときは、銀座橋一帯白川川岸(約405〜440m)のほうが近くなります。
「余震」という言葉が変わった日|次が小さいとは限らない

2016年4月14日21時26分にM6.5、その約28時間後の16日1時25分にM7.3。同じ地域で震度7が2回起きたのは観測史上初めてでした(熊本県の資料)。熊本市の中央区は1回目が震度5強、2回目が震度6強。東区と西区は6弱から6強に上がっています。
この地震のあと、気象庁は呼びかけの言葉を変えました。理由が、気象庁の技術報告に書かれています。「余震という言葉は、最初の地震よりも規模の大きな地震は発生しないという印象を与えることから、防災上の呼びかけにおいては余震という言葉よりも地震という言葉を使うことが望ましい」。同じ報告にはこうもあります。「ある地震が発生した場合、その地震が前震であるかどうかを本震発生前に知ることはできない」。
そこで平成28年8月19日に方法が見直され、最大震度5弱以上が観測された場合などには「最初の地震と同程度の地震に注意」と呼びかけることが基本になりました。そして2026年7月28日、気象庁は実際にこの方針で「地震発生から1週間程度、最大震度7程度の地震に注意してください」と発表しています。旅行中に大きく揺れた日は、その日のうちに終わらない。熊本で覚えておく価値があるのは、この一点です。
帰れない時|計画の11,000人と、実際の30人
熊本市の計画には、大規模災害時の帰宅困難者一時滞在施設として熊本桜町ビル(受入可能人数 約11,000人)と熊本駅周辺地区(約1,800人)の2つが挙がっています。帰宅困難者数は31,157人という想定(平成25年度調査)です。
2026年には、この仕組みが実際に動きました。市の本部会議資料に、桜町ビルの中にある熊本城ホールについて「一時帰宅困難者受け入れとして、7/30(木)9時現在、シビックホール及びエントランスロビーに30人を受入中」とあります。計画の11,000人に対して30人。これは中央区の揺れが震度5強にとどまったからで、施設が役に立たなかったという話ではありません。受け入れの規模は、その日の被害で決まります。
外国から来た人向けの窓口も動いています。地震の発生が16時27分で、災害多言語支援センターの開設が同じ日の19時30分。約3時間後です。9月4日10時時点で相談は36件。熊本市の計画は、要配慮者の説明でこう書いています。「或いは観光客や外国人等のように、危険地域や避難情報などが分かりにくい人である」。旅行者は、市の文書のなかで名指しされている側です。
持ち物と、今日できること
熊本で待つ時間に要るのは、電源、灯り、トイレ、水の入れ物、書類の袋です。次の揺れに備えて建物の外にいる時間が延びる場面では、羽織る物が先に効きます。旅行のかばんに入る7点は旅行の防災ポーチの記事で選んでいます。
今日できることを1つだけ。行く前に、泊まる場所のいちばん近い指定緊急避難場所を1つ、地図アプリに保存しておきます。1分で終わります。宿の住所か郵便番号をハザードマップかんたん検索に入れると、近くの指定緊急避難場所を国の地図で開けます。熊本では保存するときに、その場所が「地震」に対応しているかを一緒に見てください。表示されている災害の種別には、熊本市ならではの付き方があります。
この記事の出典
- 気象庁『令和8年7月28日16時27分頃の熊本県熊本地方の地震について』(令和8年7月28日)、同『技術報告 第135号 本技術報告における前震・本震・余震という用語について』
- 内閣府『令和8年熊本地震に係る被害状況等について』(令和8年9月9日12時00分現在)、中央防災会議 防災対策実行会議『熊本地震を踏まえた応急対策・生活支援策の在り方について(報告書)』(平成28年12月)
- 地震調査研究推進本部『令和8年熊本地震の評価』(令和8年7月29日)、同『布田川断層帯・日奈久断層帯の評価(一部改訂)』(平成25年2月1日)、同『長期評価結果一覧』(算定基準日 令和8年1月1日)
- 熊本県『第1章 熊本地震の概要』、同『津波浸水想定について(解説)』(令和6年12月11日改訂)、同『熊本県津波浸水想定における津波到達時間の調査結果について』(令和6年12月)
- 熊本市『熊本市地域防災計画 本編・資料編』令和8年度(2026年度)版、同『第26回熊本市災害対策本部会議資料』(令和8年9月4日)、同『第7回熊本市災害対策本部会議資料』(令和8年7月31日)
- 国土地理院「指定緊急避難場所データ」(熊本市分 2025年1月23日更新)、標高API(2026年9月25日取得)
- 国土交通省「ハザードマップポータルサイト」(洪水浸水想定区域・想定最大規模。2026年9月25日確認)
※避難場所の指定・被害想定・施設の開閉は更新されます。この記事は2026年9月22日時点の公的資料をもとに書いています。とくに熊本市の指定緊急避難場所データは2025年1月23日更新で、2026年7月の地震のあとの状況を反映していません。現地では、いる施設の係員と熊本市・熊本県の案内を優先してください。距離は直線距離で、歩く時間ではありません。標高は国土地理院の数値で、建物の床の高さではありません。

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