停電の夜を乗り切る|電池式扇風機と保冷剤の使い方

真夏の夜9時、家じゅうの電気が消える。エアコンが止まる。外は熱帯夜で、窓を開けても風がない。

このとき何をするかで、朝の状態がまったく変わります。高齢の方や小さいお子さんがいる家庭では、これは快適さの問題ではなく、体調の問題になります。

最初の10分でやること

1. 窓を2か所開ける 1か所だけ開けても空気は動きません。対角線上の2か所を開けて、風の通り道を作ります。昼間で外のほうが暑い場合は、逆にカーテンを閉めて日射を遮ります。

2. 冷蔵庫は開けない。冷凍庫から保冷剤だけ出す これは順番が大事です。冷凍庫を1回だけ開けて、保冷剤を全部取り出し、すぐ閉めます。取り出した保冷剤は、そのあと体を冷やすのにも、冷蔵室の食材を守るのにも使えます。

3. 飲み水を全員の手元に置く 暑さの我慢比べをしないためです。停電すると「水道も止まるかも」と考えて節水しがちですが、水分だけは減らさないでください。

体の冷やし方には順番がある

うちわで顔をあおぐのは、実はあまり効きません。

冷やすべきは首、わきの下、足のつけ根です。ここには太い血管が皮膚の近くを通っていて、冷やすと体全体の温度が下がります。保冷剤をタオルで巻いて当ててください。直接当てると凍傷になります。

もうひとつ効くのが、濡らしたタオルで体を拭くことです。水が蒸発するときに熱を奪うので、扇風機がなくても体温が下がります。断水していなければ、これがいちばん手軽です。

家の中でいちばん涼しい場所に集まる

停電の夜は、家族がバラバラの部屋にいる意味がありません。

北側の部屋、1階、風の通る廊下。家の中で温度が低い場所を探して、そこに集まって寝てください。人が集まると温度は上がりますが、それでも南向きの2階よりはるかにましです。

車がある家庭では、車が最後の避難所になります。エンジンをかければエアコンが使えます。ただし車庫の中では絶対にやらないでください。一酸化炭素中毒で亡くなる事故が毎年起きています。屋外で、マフラーの周りに物がない状態にしてから使ってください。

ガソリンは常に半分以上、を習慣にしておくと、この選択肢が生きます。

分かれ目は、扇風機が1台あるかどうか

ここまでの方法は、どれも道具がなくてもできます。それでも、電池で動く扇風機が1台あるかどうかで、夜のつらさは別物になります。

風があるだけで、体感温度は2〜3度下がります。汗も乾きます。眠れます。

乾電池式の小型扇風機なら3,000円前後で買えます。ただし単1電池4本で連続8時間程度のものが多く、一晩持たせるには予備の電池が要ります。

一晩まわせる電気を、どう用意するか

扇風機を朝まで動かす。冷蔵庫を数時間だけ生かす。スマホを何度も充電する。これらをまとめて解決するのがポータブル電源です。

安い買い物ではありません。だから容量の選び方だけ、ここで押さえておきます。

  • 扇風機(30W)を8時間 … 約240Wh
  • スマホ充電(15Wh)を4台×2回 … 約120Wh
  • 合計で 400Wh前後あれば、夏の一晩は十分にしのげます

500Whクラスが、価格と実用性のちょうどいい線です。1,000Whを超えると値段が跳ね上がるわりに、夏の停電では使い切れません。「大は小を兼ねる」で選ぶと高い買い物になります。

機種ごとの実測時間と、防災士として選んだものはポータブル電源おすすめ|停電でエアコンが止まった時の命綱にまとめています。

冷蔵庫の食材をどこまで守れるかは真夏の停電はこう乗り切るのほうがくわしいです。

扇風機は、体ではなく空気に当てる

電池式の扇風機は、顔や胸に向けて回す方が多いです。ただ、1台しかないなら置き方を変えたほうが効きます。

おすすめは、開けた窓のそばに、外へ向けて置く方法です。部屋にこもった熱い空気を外へ押し出すと、もう一方の窓から新しい空気が入ってきます。扇風機の前にいない人のまわりでも、空気が動きやすくなります。

ただし、この置き方が効くのは外の空気が室内より涼しいときだけです。日中の暑い時間にやると、熱い外気を引き込んで室温が上がります。日が落ちて、外のほうが涼しくなってから切り替えてください。昼のあいだは窓とカーテンを閉めて日差しを遮り、室内で風を回す使い方が向いています。

風量は弱で構いません。単3形の乾電池4本で動く機種には、弱で約15時間、強で約2.5時間という製品があります。首振りが付いている機種なら、首振りを使うほうが部屋の空気は動きます。ただしモーターが余分に回るぶん、電池は多少早く減ります。

もうひとつ、室温が35℃前後を超えると、風を当てるだけでは体温が下がりにくくなります。環境省の資料では、気温が36℃を超えると扇風機は熱い風を送ることになり、かえって体温を上げることがあると言われています。そのときは濡らしたタオルで肌を湿らせてから風に当たってください。水が蒸発するときに熱を奪う働きが加わって、風の効き方が変わります。

窓を開けられない家は、空気の逃がし方を先に決める

マンションの高い階では、風が強すぎて窓を開けられないことがあります。1階や道路沿いのお宅では、夜に窓を開けること自体が心配だという方もいます。

使える方法は次のとおりです。

  • 窓は数センチだけ開けて、補助錠で止めます。それ以上開かない状態にすれば、防犯の心配は小さくできます
  • 玄関ドアと窓で風を通すなら、人が起きている時間だけにします。眠るときは閉めてください
  • 廊下側の小窓や、壁の給気口(丸い換気口)を開けます。ふさいだままになっているお宅が多い場所です。停電中は24時間換気の排気ファンも止まるため、給気口を開けるだけでは空気はほとんど動きません。次の扇風機で外へ出すぶんの、空気の入り口として開けてください
  • 外のほうが涼しくなってから、扇風機を窓の外へ向けて、開けたすき間から熱い空気を押し出してください

それでも空気が動かない造りの家はあります。窓が1面にしかない部屋や、玄関側に開口部がない間取りでは、風の通り道そのものがありません。窓を開けられない家ほど、扇風機を朝まで確実に回せることの価値が上がります。容量の目安は【2026年最新】ポータブル電源おすすめ10選|防災士が本気で比較で確かめてください。

冷凍庫は「開けないこと」がいちばんの節電

停電中の冷凍庫は、開けなければ冷たさを保ちます。農林水産省の目安では、扉を閉めたままなら冷蔵室で約4時間、冷凍室は食品が詰まった状態で約48時間、半分ほどの入り具合で約24時間とされています。反対に、中を確かめるたびに冷気が下へ流れ落ちて、保つ時間が短くなります。

覚えることは3つだけです。

  • 開けるのは最初の1回。保冷剤をまとめて出したら、あとは朝まで開けません
  • 中身が詰まっているほど長く保ちます。すき間が多い冷凍庫ほど早く溶けます
  • 冷蔵室のほうが先に温まります。出した保冷剤のいくつかは、冷蔵室のいちばん上の段に置いてください。冷気は下へ降りるので、上に置くほうが庫内に行き渡ります

今のうちにできる準備もあります。500mlのペットボトルに水を8割ほど入れ、冷凍庫のすき間に立てて凍らせておく方法です。すき間が埋まって普段の冷えもよくなり、停電の日は保冷剤と飲み水を兼ねます。水は凍ると膨らむので、口いっぱいまで入れないでください。

電気が戻ったあとの食品は、迷ったら食べないでください。判断の線は、氷が残っているかどうかです。氷の粒が残っていて、まだ硬いものは、そのまま冷凍し直して差し支えないとされています。長い時間ぬるくなっていたものは処分してください。一度やわらかくなった肉や魚は、また凍らせても食感は元に戻りません。においや色が普段と違うものも、処分するほうが安全です。

「暑い」から「危ない」に変わるサイン

夏の停電でいちばん気をつけたいのは、眠っている間に体調が変わることです。

次のような様子が出たら、涼しい場所へ移して、首・わきの下・足のつけ根を冷やし、水分と塩分をとってもらってください。

  • 頭が痛い、気持ちが悪い、めまいがする
  • 手足がつる、力が入らない
  • 汗が急に増えた

冷やして休んでも良くならないとき、水分や塩分を自分でとれないときは、医療機関を受診してください。頭痛や吐き気、嘔吐、体のだるさが続く場合は、病院で手当てを受ける段階とされています。

そして、次の様子は救急車を呼ぶ場面です。

  • 呼びかけへの反応が鈍い、返事がかみ合わない
  • まっすぐ歩けない、体を支えられない
  • 自分で水を飲めない、飲ませるとむせる
  • けいれんしている
  • 暑いのに汗が出ていない。肌が熱く乾いている

夜中に119番を呼んでいいのか迷う、というご相談は多いです。判断の線は自分で水を飲めるかどうかに置いてください。飲めないときは、家で回復させられる状態ではありません。停電で暗い部屋では、家族の変化に気づきにくくなります。特に高齢の方は暑さやのどの渇きを感じにくくなるので、1〜2時間おきに声をかけて、返事の様子を確かめてください。

停電に気づいた直後の手順は停電でエアコンが止まった。最初の30分にまとめています。

今日できることを1つ。お住まいの地域で「#7119」(救急安心センター)が使えるかを調べて、使えるなら電話のそばか冷蔵庫に貼っておいてください。呼ぶかどうか迷ったときに、医師・看護師・救急救命士に相談できる番号です。実施しているのは全国の一部の地域なので、先に確かめておくと夜に迷いません。#7119が使えない地域でも、別の番号で救急電話相談を受け付けている場合があります。お住まいの自治体や消防のホームページで確認してください。

今日できること

冷凍庫を開けて、保冷剤の数を数えてください。

2個以下なら、次の買い物で2個足す。1個100円程度です。停電の夜、この2個が首とわきの下を冷やしてくれます。