名古屋駅の桜通口で、栄のオアシス21で、熱田神宮の参道で、大きく揺れた。旅行や出張で来た人が最初に迷うのは「どこへ逃げるか」です。この記事は、名古屋の3つの場所について、揺れた直後の1時間に何をするかを、愛知県と名古屋市の公式の資料から書いたものです。旅先で地震にあった時の共通の動き方は旅行先で地震にあったらの記事にまとめています。
結論を先に言います。名古屋は、同じ街の中で足元の高さが10m違います。名古屋駅前が標高2.2m、栄が12.7m。そして名古屋市が海抜の表示板を貼っている7区に、中村区(名古屋駅)と熱田区(熱田神宮)は入っていて、中区(栄)は入っていません。街の電柱や街路灯に貼られた青い板が、そのまま判断の材料になります。
私は防災士として、愛知県『南海トラフ地震被害予測調査結果』(2026年6月)、名古屋市の海抜表示、名古屋駅周辺と伏見・栄地区の都市再生安全確保計画、熱田区の津波避難ビル一覧(令和8年8月1日時点)、国土地理院の指定緊急避難場所データと標高を読んでこの記事を書きました。
3地点の結論|足元の高さが10m違う
| 場所 | 標高 | 海抜表示の対象 | 揺れが収まったら |
|---|---|---|---|
| 名古屋駅前(中村区) | 2.2m(太閤通口側 1.4m) | 対象の7区 | 安全が確認された建物なら屋内で待つ。徒歩圏に津波避難ビルの指定はない |
| 栄・オアシス21(中区) | 12.7m | 対象外 | オアシス21へ。一時退避場所であり退避施設でもある |
| 熱田神宮(熱田区) | 9.6m(西門側 5.2m) | 対象の7区 | 熱田神宮そのものが避難場所。津波なら熱田区役所等複合施設南館の4階以上へ |

標高は国土地理院の数値(2026年9月9日取得)で、地面の高さです。建物や駅ホームの高さではありません。距離は、この記事ではすべて直線距離で書きます。
名古屋で想定されている地震|2026年6月に想定が新しくなった
愛知県は2026年6月に『南海トラフ地震被害予測調査結果』を公表しました。国が2025年3月に想定を見直したのを受けたものです。モデルは2つ。過去地震最大モデル(宝永・安政東海・安政南海・昭和東南海・昭和南海の5地震を重ね合わせたM8.9程度)と、理論上最大モデル(M9を超える、千年に一度あるいはそれよりもっと発生頻度が低いもの)です。
| 名古屋市の想定 | 過去地震最大モデル | 理論上最大モデル |
|---|---|---|
| 最大震度 | 6強 | 7(陸側ケース) |
| 最大津波高 | 3.9m | 3.4m |
| 最短の津波到達時間 | 100分 | 91分 |
| 全壊・焼失棟数 | 約15,000棟 | 約62,000棟 |
| 死者数 | 約900人 | 約6,200人 |
この表で気をつけてほしいのは津波高が逆転している点です。過去地震最大モデルのほうが3.9mと高く、震度は理論上最大モデルのほうが大きい。「最大想定のほうが津波も高い」と読むと間違えます。液状化は「濃尾平野、岡崎平野、豊橋平野を中心に、平野部で液状化危険度が極めて高くなっている」。帰宅困難者は県全体で約91万人です。
名古屋の分かりにくさ|街に貼ってある「海抜○m」の青い板
名古屋市は「住民の迅速な避難に役立つよう、津波の影響が懸念される地域に海抜表示を行います」として、街に海抜の表示板を貼っています。対象は中村区、瑞穂区、熱田区、中川区、港区、南区及び緑区の7区。協力民間施設 約300箇所と市有施設 約560箇所、街路灯は緊急輸送道路に約2,700箇所。「青字に白色の文字で海抜を表示し、文字部分には蓄光性能を有しています」とあるので、停電した夜でも読めます。

| 地点 | 海抜表示の7区 | 津波避難ビルの指定対象区 | 臨時情報の事前避難対象 |
|---|---|---|---|
| 名古屋駅(中村区) | 入る | 入る(名駅の住所に指定は無し) | 入らない |
| 栄(中区) | 入らない | 入らない | 入らない |
| 熱田神宮(熱田区) | 入る | 入る | 千年学区のみ |
3つの区分が並ぶと、街の性格がはっきりします。栄は3つとも対象外で、名古屋駅と熱田神宮は津波を前提に組まれた区にあります。ゼロメートル地帯という言い方の裏付けも出ます。港区役所と南区役所の標高が0.4m、中川区役所が0.9m。名古屋の南西側は、そういう土地です。
名古屋駅前|徒歩圏に津波避難ビルの指定がない

名古屋駅の足元は標高2.2m、太閤通口側は1.4mです。地震に対応した最寄りの指定緊急避難場所は、牧野小学校(中村区竹橋町・約460m・標高1.5m)、笹島小学校・笹島中学校(中村区名駅四丁目・約673m・2.2m)、旧那古野小学校(西区那古野二丁目・約739m・2.8m)。大規模な火事に対応するのは米野公園(約1,175m・1.1m)です。
ここで知っておいてほしい事実が1つあります。名古屋駅から直線1.3km圏に、津波に対応した指定緊急避難場所はありません。中村区の津波避難ビル一覧に「名駅」の住所は1件もなく、掲載されている学区は稲葉地・稲西・千成・柳・岩塚・八社で、いずれも庄内川寄りの区西部です。名古屋駅で「近くの津波避難ビルへ」という動き方はできません。
では何をするか。市の計画は時間で分けています。発災直後は、安全確認がとれた建物では屋内待機。その他は一時退避場所または近隣の広域避難場所へ誘導する、という順番です。数字も厳しい。当地区は1日の乗降客数が約122万人、平日14時に20万6,000人の滞在者がいて、行き場のない帰宅困難来訪者は4万4,000人。「発災直後の屋内待機が約5万人であり、最大約9.0万人が屋外に出る可能性があります」「名駅一丁目〜名駅四丁目の一時退避場所の収容人数は約2.7万人であり、道路に人があふれる可能性があります」と計画に書かれています。
栄・オアシス21|3つの区分すべてで対象外。待つ場所がその場にある
オアシス21付近の標高は12.7m、栄交差点は12.0m。名古屋駅より10m高い場所です。前の章の表のとおり、中区は海抜表示・津波避難ビル・臨時情報の事前避難のいずれの対象にも入っていません。栄で揺れたら、津波を気にして動く場面ではなく、揺れと火災と待つ場所の話になります。
そして待つ場所が、その場にあります。オアシス21は『伏見・栄地区都市再生安全確保計画』で「一時退避場所A17」かつ「退避施設B3」に位置づけられています。一時退避場所としては空地、退避施設としては会議室等、という区分です。地震に対応した最寄りの指定緊急避難場所は、東桜小学校(東区東桜一丁目・約372m・標高9.8m)、冨士中学校(東区東桜一丁目・約434m・11.7m)、久屋大通公園(中区丸の内三丁目・約689m・11.2m・地震/大規模な火事)。
伏見・栄地区の数字も出ています。平日13時に滞在者・来訪者が最大となって約14万6,000人、行き場のない帰宅困難来訪者は約2万7,000人。一時退避場所の収容人数の合計が約11万5,000人に対し、退避施設の合計は約1万8,000人。屋外で待てる場所は足りていても、屋内で待てる場所は足りていません。
熱田神宮|神宮そのものが避難場所。津波なら行き先が変わる
熱田神宮 本宮付近の標高は9.6m、西門側は5.2mです。熱田神宮そのものが指定緊急避難場所(地震/大規模な火事)に指定されています。データ上の位置は約426m・標高7.2m。ほかに白鳥小学校(熱田区白鳥二丁目・約336m・5.1m)が洪水・高潮・地震・津波・内水氾濫に対応し、宮中学校(熱田区白鳥一丁目・約460m・2.9m)が続きます。
津波のときは行き先が変わります。熱田区役所等複合施設南館(熱田区神宮三丁目・約242m・標高2.6m)、学校法人電波学園メディアセンター(熱田区神宮三丁目・約335m・1.9m)、ファルコン熱田(熱田区玉の井町・約394m・7.5m)。名古屋の津波避難ビルは、建物の名前だけでなく上がる階まで決まっています。区の一覧には「熱田区役所等複合施設南館 4〜7階エレベータホール、7階講堂」「電波学園メディアセンター 4階〜7階の外階段」「白鳥小学校(校舎棟) 3階以上」と書かれています。
熱田区は海抜表示の7区に入り、津波避難ビルの指定対象区でもあります。南海トラフ地震臨時情報が出たときの事前避難対象は、熱田区では千年学区(堀川沿い・1,161人)だけです。神宮の周りは事前避難の対象ではありませんが、津波の避難ビルは指定されている。この2つは別の制度だと覚えておいてください。
帰れない時|退避施設は24時間が限度
名古屋市の呼びかけは「『むやみに移動を開始しない』ようにお願いします」です。そのうえで用意されているのが退避施設で、市の定義は「大規模地震発生時に、発災から24時間を限度として、行き場のない帰宅困難者を受け入れるための施設」。同じページに「発災から24時間を目途に閉鎖される、一時的な滞在施設です。その間に、ホテルや知人宅など、身を寄せる場所を確保してください」と書かれています。24時間で次を探す前提の仕組みです。
名古屋駅周辺の退避施設には、ウインクあいち(1階ホワイエ、会議室等)、ミッドランドスクエア(地下1階・1階ロビー、ホール)、相鉄フレッサイン名古屋駅桜通口(1階ロビー、飲食店)などが名前入りで載っています。ただし計画の但し書きは「退避施設は、管理主体が開設可能と判断した場合に限り開設されるものであり、使用できない場合もある」「退避施設内の安全確保は、退避者が原則自己の責任において行うものとする」。施設は場所を貸してくれますが、自分の分は自分で持ちます。
観光客が使える情報源|10言語のアプリと、なごやハザードマップ
名古屋市防災アプリは10言語に対応しています。日本語・やさしい日本語・英語・中国語(簡体字)・ベトナム語・フィリピノ語・ネパール語・ポルトガル語・ハングル・スペイン語。機能は、緊急の防災情報のプッシュ通知、その場所の災害リスクが分かるハザードマップ、マイ・タイムライン作成、そして災害時に音で救助を求めるブザーです。がれきの下から音を出す手段が入っているアプリは多くありません。
地図で確かめたいときは「なごやハザードマップ」です。洪水・内水氾濫・高潮に加えて、地震、津波、ため池氾濫まで載っています。退避施設の場所は『名古屋市帰宅困難者ハンドブック』(名古屋駅周辺、伏見・栄、金山駅周辺の3地区・日本語/英語/中文)で見られます。
持ち物と、今日できること
名古屋で待つ時間に要るのは、電源、灯り、トイレ、水の入れ物、書類の袋です。退避施設が24時間で閉まる前提なら、そのあと動くための靴と、明るいうちに移動できない場合の灯りが効きます。旅行のかばんに入る7点は旅行の防災ポーチの記事で選んでいます。
今日できることを1つだけ。行く前に、泊まる場所のいちばん近い指定緊急避難場所を1つ、地図アプリに保存しておきます。1分で終わります。名古屋ではもう1つ、街に出たら海抜の表示板を1枚探してみてください。自分が今いる場所が2mなのか12mなのかが、青い板1枚で分かります。
この記事の出典
- 愛知県『南海トラフ地震被害予測調査結果』(2026年6月公表・2026年8月一部訂正)、愛知県『津波浸水想定の公表について』(2026年6月15日)
- 名古屋市『海抜表示』(2025年10月16日更新)、名古屋市『南海トラフ地震臨時情報 事前避難が必要な地域』(2026年1月5日更新)、名古屋市『熱田区 津波避難ビル一覧』(令和8年8月1日時点)
- 名古屋市『第3次 名古屋駅周辺地区 都市再生安全確保計画(改定版)』(令和8年7月一部変更)、名古屋市『伏見・栄地区都市再生安全確保計画』(令和8年4月一部変更)
- 名古屋市『帰宅困難者支援サイト』、名古屋市『平常時の備え 帰宅困難者にならないために』(2025年10月16日更新)、名古屋市防災アプリ(2026年8月28日更新)、なごやハザードマップ
- 国土地理院「指定緊急避難場所データ」(名古屋市分 2026年3月9日更新)、標高API(2026年9月9日取得)
※避難場所の指定・退避施設・被害想定は更新されます。この記事は2026年9月11日時点の公的資料をもとに書いています。現地では、いる施設の係員と名古屋市の案内を優先してください。距離は直線距離で、歩く時間ではありません。標高は国土地理院の数値で、建物の高さではありません。

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