四国で南海トラフに備える|4県で怖いものが違う理由と備えの順番

四国で南海トラフに備える|四国の地図をのぞき込む防災士・安心こちゃんの水彩イラスト

「南海トラフは四国が危ないと聞くけれど、うちの県では何が起きるのか」。この記事は、四国に住んでいて、その答えを一度も数字で見たことがない方のための1本です。

結論を先に言います。四国の4県は、同じ南海トラフ地震でも「怖いもの」が違います。高知と徳島の南部は「数分で来る10m超の津波」、愛媛は「震度7の揺れと液状化」、香川は「揺れのあとに1時間以上たってから来る3〜4mの津波と、77万人の断水」です。何が怖いかが違えば、備える順番も変わります。

私は四国に住む防災士です。この記事は、内閣府が2025年3月に公表した新しい被害想定と、香川県(2025年9月)、愛媛県(2026年2月)、徳島県(2026年2月)が相次いで出した最新の県想定、高知地方気象台の資料を突き合わせて書きました。数字はすべて公的資料の物で、出典は記事末尾にまとめてあります。読み終わる頃には、「うちの県で起きること」と「今日やる1つ」が決まります。

先に全体像|4県で何が違うか

いちばん怖いもの 津波の目安 備えの順番
高知 数分で来る巨大津波 全沿岸で10m以上。黒潮町・土佐清水市で最大34m ①逃げる場所と道を決める ②家の耐震 ③備蓄
徳島 南部の津波と、市街地の1時間後の津波 海陽町16.3m、美波町15.8m(南部は8〜15分で到達)。徳島市は約5mが40〜60分後 ①南部は即避難の練習 ②市街地は「1時間で高い所へ」 ③耐震
愛媛 震度7の揺れと液状化 宇和海側(宇和島・愛南・八幡浜)に5m超の浸水域。北部は浸水面積が広がる想定に ①耐震と家具固定 ②感震ブレーカー ③宇和海側は津波避難
香川 揺れ、そして1時間以上あとの津波と断水 沿岸3〜4m(高松・さぬき4.2m)。東かがわ市に約1時間、観音寺市には3時間40分後 ①耐震と家具固定 ②断水と停電の備え ③沿岸は「揺れたら高い所へ」

この表の「備えの順番」が、この記事でいちばん伝えたいことです。全国向けの防災情報は「津波から逃げろ」と「家を耐震化しろ」を同じ強さで言いますが、四国の中でも住む県によって、先にやることは違います。ここから県ごとに、根拠の数字と一緒に見ていきます。

四国全体で起きること|内閣府の2025年想定

内閣府は2025年3月、南海トラフ巨大地震の被害想定を12年ぶりに見直しました。四国が大きく被災するケースでは、全国の死者が約3万人から約23万8千人、全壊・焼失する建物が約95万棟から約232万棟と想定されています。幅が大きいのは、発生する時刻と、住民がすぐ逃げるかどうかで結果が大きく変わるからです。

この想定で、私がいちばん重く受け止めた数字は3つです。

対策 死者数の変化(内閣府の推計)
1981年以前の建物の耐震化を進める 約73,000人 → 約17,000人(77%減)
家具の転倒・落下防止を進める 約5,300人 → 約1,800人(66%減)
津波から「すぐに」逃げる人が増える 津波による死者に2.3倍〜9.8倍の差

つまり、被害の大きさはまだ決まっていません。家を固める、家具を固める、揺れたらすぐ逃げる。この3つを、それぞれの家が今日やるかどうかで、上の数字は動きます。発生確率は「30年以内に80%程度」。これは香川県の報告書にも同じ数字で載っています。

高知県|「津波が来る前提」で家を選び、道を決める

高知は、四国で最も津波が高く、最も早く来る県です。高知地方気象台の資料では、最大クラスの地震で県内のほぼ全域が震度6弱から7、津波は全沿岸で10m以上、土佐清水市と黒潮町では最大34mと想定されています。1707年の宝永地震では死者1,844人と行方不明926人、1946年の昭和南海地震では死者・行方不明679人という記録が残っています。

この県で最初にやることは、備蓄ではありません。「揺れが収まった瞬間に、どこへ、どの道で逃げるか」を家族全員が言えることです。津波は数分で来ます。荷物を取りに戻る時間も、家族を探す時間もありません。高知県の防災マップで自宅と職場、学校の浸水深と、いちばん近い高台や津波避難タワーを確認し、実際に一度歩いてください。夜と雨の日にも一度。これが高知の防災の9割です。

そのうえで家の耐震です。家がつぶれると、逃げる前に閉じ込められます。逃げ道の確保と耐震は、高知では同じ話です。備蓄は「浸水しない場所(2階・車・高台の親戚宅)に置く」が前提になります。1階の押し入れに水を積んでも、津波で流れてしまいます。

徳島県|南部は「分」、市街地は「1時間」

徳島は、県の中で時間の感覚が大きく違います。県の津波浸水想定によると、南部の海陽町では宍喰漁港で最高津波水位16.3m、美波町阿部で15.8m。津波が海岸から1mの高さで到達する時間は、海陽町の鞆浦で8分、宍喰で9分、美波町の日和佐で13分、由岐で15分です。高知と同じく「揺れたら即座に高い所へ」の県です。

一方、徳島市や鳴門市、小松島市の沿岸では、最高津波水位は2〜6m台で、到達時間は徳島市マリンピア東端で43分、鳴門市粟田漁港で67分と想定されています。ここでの落とし穴は「1時間あるから大丈夫」と思って家の片づけや様子見を始めることです。停電で信号が止まり、道路は液状化と車の渋滞で動きません。歩いて高い建物へ向かうなら、40分は決して長くありません。揺れが収まったら、荷物は最低限で、徒歩で上へ。これが市街地の正解です。

徳島県は2026年2月に県独自の被害想定も公表しています。自宅の浸水深と到達時間は、県の防災・減災マップで住所から調べられます(出典は末尾)。

愛媛県|津波より先に「揺れ」で決まる

愛媛は、四国で最も「揺れ」の被害が重い県です。2026年2月に公表された県の想定では、ほぼ全域で震度6弱以上、7つの市で震度7が想定され、特に西条市で震度7の範囲が広くなっています。松山市、今治市、新居浜市、西条市、伊予市、四国中央市、松前町の平野部と海岸の低地は、液状化の危険度が極めて高い地域を含みます。

被害想定の数字も、揺れの重さを示しています。直接の死者は最大約12,750人で、うち津波が9,313人、建物倒壊が3,236人。これに災害関連死が最大3,602人と見込まれています。断水は最大734,874人、停電は最大700,279軒、避難者は最大413,158人です。前回想定から死者数が2割減ったのは、耐震化と上下水道の対策が進んだ結果だと県は説明しています。対策が数字を動かすことの、実例です。

愛媛で最初にやるのは、家の耐震と家具の固定、そして感震ブレーカーです。津波は宇和海側(宇和島市・愛南町・八幡浜市・伊方町・西予市)に5m以上の浸水域があり、この地域は高知・徳島南部と同じ「すぐ逃げる」備えが要ります。瀬戸内側は、今回の想定で浸水面積が広がったことに注意してください。潮位が高い時間帯に重なると、これまで「大丈夫」とされた低地が浸水します。

香川県|揺れ、それから「時間差の津波」と「断水77万人」

香川は「津波は来ない県」と思われがちですが、県が2025年9月に公表した最新の想定では、沿岸に3〜4mの津波が来ます。高松市とさぬき市で4.2m、観音寺市3.8m、三豊市3.7m、小豆島町3.7m。前回(2013年)の想定より、12市町のうち8市町で高くなりました。

香川の特徴は、時間差です。津波は鳴門海峡を通って地震の約1時間後に東かがわ市へ、豊後水道から回り込んだ波は3時間40分後に観音寺市へ到達します。しかも最高水位のあと、6時間を過ぎても津波は断続的に来て、海面の変動は半日続きます。「最初の1時間で何も来なかったから安全」ではありません。沿岸部にいる方は、揺れが収まったら、その日は海に近づかないこと。これが香川の津波の備えです。

そして香川で最も多くの人に関わるのが、揺れと断水です。最大クラスの地震では県内の広い範囲で震度6弱から6強、観音寺市・東かがわ市・三豊市の一部で震度7。揺れによる全壊は31,000棟、液状化で3,800棟、津波で3,500棟と想定されています。死者は建物倒壊で1,900人、津波で3,500人、災害関連死が1,200〜2,400人。発災直後の避難者は27.6万人。断水は773,000人、停電は560,000軒。香川県の人口の大半が、水道の止まった家で暮らすことになります。

だから香川の備えの順番は、①家の耐震と家具固定、②断水と停電を1週間しのぐ備え、③沿岸は津波の時間差を知っておく、です。①は死なないため、②はそのあと生きるため。瓦屋根の家が多い地域では、屋根の重さが耐震の弱点になることも知っておいてください。詳しくは瓦屋根と地震の記事に書きました。

4県に共通する備え3つ|順番はこの通り

1. 家を固める|耐震と家具固定

内閣府の推計で、耐震化は死者を77%減らし、家具固定は66%減らします。1981年以前に建てた家は、自治体の耐震診断(多くの市町で無料か低額)を受けてください。家具の固定は、寝室から始めます。寝ている間に倒れてくる物を、まず無くす。やり方は家具固定の完全ガイド寝室の防災にまとめました。

2. 火を出さない|感震ブレーカー

地震の火災の多くは、停電が復旧したときに倒れた電気製品から出る「通電火災」です。内閣府は、感震ブレーカーの普及で火災の死者が約21,000人から約10,000人に減ると推計しています。コンセント型なら数千円、工事なしで付けられます。地震後の火災の全体像は地震後の火災から家族を守る記事にあります。

3. 1週間しのぐ|水・トイレ・電気

四国4県のどこでも、断水と停電は数十万人規模で起き、内閣府は断水の復旧に最大約8週間かかると見ています。1週間分の水(1人1日3リットル)、非常用トイレ(1人1日5〜7回)、明かりと電池。この3つが柱です。順番と数え方は断水と水の備えまとめ非常用トイレおすすめ10選停電対策まとめに分けて書いてあります。

「南海トラフ地震臨時情報」が出たら

2024年8月8日、日向灘でマグニチュード7.1の地震が起き、初めて「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されました。四国の方なら、あの1週間の落ち着かなさを覚えていると思います。

臨時情報は「地震が来る予告」ではなく、「いつもより起きやすくなっているので、備えを確かめてください」という呼びかけです。やることは新しいことではありません。この記事の「備えの順番」を、その1週間で一度に点検する。家具の固定を確かめ、水とトイレの数を数え、逃げる道を家族と歩く。それだけです。「巨大地震警戒」が出た場合は、自治体から事前避難の呼びかけが出る地域があります。自分の住所がその対象かどうかは、県のハザードマップで先に確認しておいてください。

まとめ|うちの県の「怖いもの」から順に

高知と徳島南部は津波、愛媛は揺れ、香川は揺れのあとの時間差の津波と断水。同じ四国でも、先に備える物は違います。全国向けの「防災グッズリスト」を上から揃える前に、自分の県の一番怖いものを1つ知る。それが四国の防災の始め方です。

今日できることを1つだけ。下の出典から自分の県のハザードマップを開いて、自宅の住所を入れてください。津波の浸水深と到達時間、震度が出ます。その数字を家族に1回、口に出して伝える。それで今日の防災は終わりです。南海トラフ全体の備えは南海トラフ地震の完全対策ガイドに、在宅避難の準備は在宅避難の完全ガイドにまとめてあります。

出典(すべて公的資料)

※想定の数字は公表時点の物です。県の想定は今後も更新されるため、最新の数字は各県のページで確認してください。

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