高齢の親に防災を説得しない|伝え方と実家チェック5つ

離れて暮らす親の家が心配。だから帰省したときに防災の話をした。そうしたら、なぜか空気が悪くなって終わった。こういうご相談は本当に多いです。

結論を先に言います。高齢の親に、防災を「説得」しないでください。説得は、相手の今の暮らし方を否定するところから始まります。否定された親は、次から部屋を見せてくれなくなります。防災の話ができる関係そのものを失うほうが、家具が固定されていないことより損失が大きい。これが、多くのご家庭で起きていることです。

私は防災士として、実家の防災についてのご相談を数多く受けてきました。この記事では、説得の代わりに何をするかを、言い方の実例と、帰省でやる5つのチェック、電話で聞く3つの質問まで、そのまま使える形でまとめました。読み終わったら、次の帰省で「1つだけやること」が決まります。

先に全体像|説得しない防災の3本柱

やること やらないこと
1. 言い方 主語を「私」にする。決めるのは本人 「片付けて」「ちゃんとして」
2. 帰省のチェック5つ 2日目から、買い物や片付けの「ついで」に1つずつ 初日に押し入れを開ける。全部やろうとする
3. 電話の3つの質問 いつもの電話の終わりに1つずつ聞く 改まって「防災の話がある」と切り出す

「片付けて」は、なぜ失敗するのか

親にとって、その家は何十年も暮らしてきた場所です。物の配置には、その人なりの理由があります。手が届く高さに置いてある。動線に合わせてある。あるいは、思い出があって捨てられない。

そこへ「危ないから片付けて」と言うと、伝わるのは危険性ではありません。「あなたの暮らし方は間違っている」というメッセージです。だから反発されます。そして次からは、部屋を見せてもらえなくなります。

「うちは大丈夫」「この辺は昔から何もない」という返事も、たいてい拒否ではありません。今の暮らしを変えたくない、という気持ちが背景にあります。ここで「大丈夫じゃないよ」と返すと、その場で話は終わります。

柱1|主語を「私」に変える

うまくいく人は、言い方が違います。

失敗しやすい言い方 通りやすい言い方
「危ないから片付けてよ」 「私が安心したいから、寝る部屋だけ見せて」
「これ、賞味期限切れてるよ」 「これ今日のお昼に食べちゃおう。帰りに新しいの買っておくね」
「ちゃんと薬飲んでる?」 「お薬手帳、どこに置いてるか教えて」
「避難場所わかってるの?」 「私が知らないから、一緒に確認させて」

違いは1つだけです。親のためではなく、自分のお願いにしている。「あなたが心配だ」は、受け取る側からすると「あなたは頼りない」と同じ意味になります。「私が安心したい」なら、誰も否定されません。頼まれごとになるので、親のほうが動きやすくなります。

決めるのは本人。家族は手伝うだけ

もうひとつ大事なのが、決定権を渡すことです。薬をうまく飲めていない親に、良かれと思ってお薬カレンダーを作った。飲み方を説明した。結果は喧嘩だった。こういう話もよく聞きます。

うまくいくのは、聞き方を変えたときです。「ちゃんと飲んで」ではなく「どうしたら飲めそう?」。本人に決めてもらう。家族は、本人が決めたやり方を手伝う。防災も同じです。「この棚は危ないから動かそう」ではなく、「地震のとき、この棚どうなると思う?」と聞く。自分で気づいたことは、人から言われたことより残ります。

「うちは大丈夫」への、そのまま使える受け答え

「うちは大丈夫」→「うん、今まで無事でよかったね。じゃあ懐中電灯だけ、どこにあるか教えて」

「この辺は何も起きないから」→「そうだよね。ただ停電は台風でもあるから、そこだけ一緒に見ていい?」

「もう歳だから今さら」→「重い物はこっちで動かすから、置き場所だけ決めてくれる?」

「あんたが心配しすぎ」→「うん、心配性なだけだから、付き合って」

「また今度にするよ」→「じゃあ今日は1つだけ。次に帰ったときにまた1つね」

共通しているのは、相手の言葉を打ち消していないことです。いったん受け止めて、話の範囲を小さくして返す。「家全体を片付けよう」ではなく「懐中電灯1つの場所」まで下げると、相手も応じやすくなります。

柱2|帰省でやる実家チェック5つ

大前提:初日はやらない

親にとって帰省は、うれしくて、少し疲れるものです。着いた日は本当にうれしそうに出迎えてくれます。でも2日目、3日目になると、生活のリズムが変わるからか、少しイライラしはじめる。帰る日には、ほっとした様子で、それでも「また来てね」と寂しそうに見送ってくれる。来てよし、帰ってよし。それが帰省です。

だからチェックは2日目以降に、買い物や片付けの「ついで」にさりげなくやります。「ちょっと押し入れ借りるね」の流れで見る。改まって「今から防災チェックします」とやらないことです。初日は顔を見せて、一緒にごはんを食べる。それだけでじゅうぶんです。

チェック1:水と食べ物の賞味期限

まず、台所と押し入れです。親の家の非常食と水は、賞味期限が切れていることが多いです。買ったことに安心して、そのままになっているからです。

「これ、期限切れてるよ」と指摘しない。「これ今日のお昼に食べちゃおう。帰りに新しいの買っておくね」と言う。期限切れを責められると、親は「もう見せない」になります。一緒に食べて、一緒に買い足す。食べたら買い足すやり方はローリングストックといって、備蓄のいちばん楽な形です。そのまま親の習慣として残ります。

水の目安は1人1日3リットル、3日分。両親2人なら2リットルのペットボトル9本です。帰りの買い物で1ケース、一緒に買ってください。

チェック2:寝室と枕元

夜中に地震が来たとき、高齢の方がけがをするのは、寝室から玄関までの数メートルです。割れたガラスや落ちた物を、暗い中で裸足で踏んでしまう。確認するのは3つだけ。倒れてくる位置に大きな家具がないか。枕元に灯りがあるか。スリッパとメガネが手の届く場所にあるか。

ここでも言い方です。「私が安心したいから、寝る部屋だけ見せて」。枕元の灯りは1,000円台の物で足ります。両手が空くヘッドライトがおすすめで、帰省の手土産に1つ持っていくのもいい方法です。選び方は防災ヘッドライトおすすめ10選にまとめました。寝室の整え方は寝室の防災の記事にあります。

チェック3:冷房と、停電の暑さ対策

高齢の方の熱中症は、半分近くが家の中で起きています。冷房を我慢していないか、まず室温を見てください。目安は28度です。

ここで、解決がむずかしい問題をひとつ。お父さんは暑がりで温度を低くしたい、お母さんは寒がりで高くしたい。帰省のたびにエアコンの温度で言い合いになる。こういうご家庭は、とても多いです。どちらが正しいかを家族が決めるのは難しい。それでも1つだけ共有できることがあります。「28度を超えたら、どちらが正しいかではなく、体が危ない」。この線だけは2人に覚えてもらってください。温度計がない家には、温度計を1つ手土産に。数百円で買えます。

もう1つ、停電の話です。真夏に停電すると冷房が止まります。高齢の方には命に関わります。電池で動く扇風機と、冷凍庫の保冷剤の場所を確認しておいてください。余裕があれば、扇風機を一晩動かせるポータブル電源が心強い備えになります。容量の選び方はポータブル電源おすすめにまとめています。冬に帰省する方は、暖房が止まった夜の備えを冬の防災ガイドで確認してください。

チェック4:薬とお薬手帳

災害のとき、高齢の方がいちばん困るのは、実は食料より薬です。食料は3日あれば支援が届き始めます。でも「何の薬を、どれだけ飲んでいるか」は、本人が言えなければ誰にも分かりません。

帰省中にやることは2つだけ。薬とお薬手帳の置き場所を教えてもらうこと。そして、お薬手帳をスマホで撮らせてもらうこと。10秒で終わります。避難のとき薬を持ち出せなくても、手帳の写真があれば、避難先の医師や薬局に正確に伝えられます。仕組みは災害時の医療・薬の確保ガイドに書きました。ついでに、予備のメガネや補聴器の電池があるかも聞いておくと安心です。

チェック5:いちばん強い備えは、ご近所さん

遠くに住む親を守ってくれるのは、防災グッズではありません。ご近所さんです。帰省のたびに、実家のご近所さんへ菓子折りを持ってあいさつに行く。そういう方がいます。「遠くに住んでいるので、両親を気にかけてもらえたらうれしいです。何かあったら教えてください」と伝えて、連絡先を渡す。

親がケアマネジャーさんにお世話になっているなら、その方にも同じように。災害の最初の10分、親のそばにいるのは、遠くの家族ではなくご近所さんです。菓子折り1つで買える安心としては、安すぎるくらいです。

柱3|離れて暮らすなら、電話で3つだけ確認する

帰省は年に数回でも、電話は毎週かけられます。改まって時間を取らず、いつもの電話の終わりに1つずつ聞くだけでじゅうぶんです。

「枕のそばに、背の高い家具ある?」寝ている間は、とっさに動きにくくなります。倒れてくる物が頭の上にあるかどうかが、最初に知りたいことです。

「停電したら、手を伸ばすところに明かりある?」押し入れの奥だと、暗い中で取りに行くことになります。枕元か、ベッドの脇かを確認します。

「電話がつながらなくなったら、どうしようか」安否確認の方法を決めておく話です。災害用伝言ダイヤル171は毎月1日と15日に体験利用ができるので、その日に一緒にかけてみると、説明するより早く覚えてもらえます。使い方は171の使い方の記事にあります。

3つとも「うちは大丈夫」と言われても構いません。聞いておくと、次に話すときの入口になります。

やってはいけない1つ|本人がいない間に片付けない

本人が出かけている間に、危ないと思った物をまとめて片付けてしまう方がいます。良かれと思ってのことですが、おすすめしません。物の置き場所は本人の記憶とセットになっていて、動かした側は覚えていても、毎日使う人は探すところから始めることになります。そして、次から部屋を見せてもらえなくなります。

代わりに、その場でできるのは3つです。捨てずに、棚の上の重い物を本人と一緒に下の段へ移す。夜の通り道(寝室からトイレまで)の床だけ空ける。「帰ってからも見たいから」と伝えて、寝室の写真を1枚撮らせてもらう。写真があれば、離れていても次に何を頼むか考えられますし、兄弟と相談するときの材料にもなります。

物を渡すときも、押しつけない

防災グッズを買って持っていくのは良い方法です。ただし渡し方があります。「これ使って」ではなく、「私が使ってみて良かったから、同じの買ってきた」。おすそ分けの形にすると、受け取りやすくなります。

手土産にちょうどいいのは、枕元のライト、温度計、携帯トイレ数回分あたりです。大きい物は置き場所に困らせるので避けます。読み物なら置き場所にも困りません。話を切り出しにくいときは、防災マンガおすすめ8選から選べます。高齢の親に何から用意すればいいか迷うときは、高齢者向け防災対策おすすめ10選もあわせて参考にしてください。

まとめ|完璧を目指さない

帰省の目的は、チェックを全部終わらせることではありません。「また来てね」と言ってもらえる関係のまま、備えが1つ進めば、それでじゅうぶんです。5つ全部やろうとして関係が悪くなるより、1つだけやって次も見せてもらえるほうが、長い目で見て親は守られます。

今日できることを1つだけ。次に実家へ電話するとき、切る前の1分で「枕元に懐中電灯ある?」とだけ聞いてみてください。答えが「ないと思う」でも、それが分かったこと自体が前進です。次の帰省で何を1つやるかは、上の5つから選んでください。1つに絞ると決めた時点で、その帰省は成功します。

この記事の数字の出どころ

  • 飲料水は1人1日3リットル … 農林水産省「家庭備蓄ポータル」
  • 災害用伝言ダイヤル171の体験利用日(毎月1日・15日) … NTT東日本・西日本の案内
  • 室温の目安28度 … 環境省の熱中症予防の目安(室内の温度管理)

※この記事は「実家の防災、親と喧嘩しない伝え方」と「帰省前にやる実家の防災チェック5つ」の2本を、2026年9月に1本にまとめ直した物です。

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